第18話 再来

 今でもバークダインは夢に見る。

 あの凄惨な戦場を――!

 あの虚しい戦場を――!


 敵が自分を殺そうとするのはいい。

 殺されないように殺すだけだ。


 敵を殺すのはいい。

 どこの誰とも知れぬ輩だ。


 だが、いくら死体の山を築いても、得られるのは端金ばかり。


 おかしい――

 王侯貴族の先祖はこうやって地位を得たのではないか?

 自分は――いつになったら王になれる――?


 この道に未来はないと気付いた時、船出を決意した。

 魔界と呼ばれる地で、ようやく自分は運命に出会った。


 ああ――もうすぐだ。

 自分は――王になれる。

 頂点に立てるッ!!


          *


 前回の襲撃から1週間――

 再び旅団の2人組はやって来た。


 カーシュとボーレンは、前回と同じようにドラゴンから降り立った。

 カーティスタウンがとてつもない緊張感に包まれる。


「こいつらが問題の2人組か……」


「そうだね。強いよ」


 ドラゴンは以前倒したものよりは一回り小さいが油断はできない。

 ただ、ドラゴンに乗っていた2人組の方が脅威であることは直感的に理解できた。


「いや~、前回は留守で申し訳なかったね」


 アルヴィンはわざとらしい笑顔で嫌味を言った。


「全くだよ。おかげでもう一度来る羽目になってしまったよ」


 カーシュはわざとらしく呆れた様子で言った。


「さぁ、返事を聞かせてよ?」


 ボーレンは帽子のツバを持ち上げながら問う。


「もちろん、断るよ。公社は国王にのみ従う」


 アルヴィンははっきりと言い放つ。

 その口調に一切の迷いはなかった。


「それは残念だねぇ」


 カーシュとボーレンの目にはっきりとした殺意が宿った。

 アルヴィンたちはいつ相手が攻撃してきてもいいように身構える。


「それで、ここで始めてもいいんだけどさ。お互い、施設が破壊されるのは忍びないじゃん? 戦う場所は選ばせてあげるわよ」


 ボーレンは軽い調子で言った。

 旅団はあくまで公社を吸収するつもりだ。

 だから、施設を破壊したくもないし、無駄に殺す気もない。


「それではお言葉に甘えて……」


 アルヴィンはそう言って歩き出したがすぐに止まる。


「クラリッサ、ここで待機して、ドラゴンを見張っていてほしい。なぁに、同じ数なら僕らが勝つよ」


「……わかりました。建設中の礼拝堂が破壊されては適いませんからね」


 クラリッサはそう答えた。

 これが余裕を見せるための演技なのか、本気なのかはわからない。


「話はまとまったようだね」


「ああ、待たせたね――」


 アルヴィンは再び歩き出す。

 カーシュ、ボーレンが後に続く。

 さらにその後から、トーマスが追う。


 ……………………。


 …………。


 カーティスタウンから適度に離れて、開けた場所に到着した。


「たった2人で戦うなんて、ずいぶんと舐められたものだね」


 カーシュは呆れた様子で言った。


「その言葉、そっくりそのまま返すよ」


 そう言って、アルヴィンは剣を抜いて構えた。

 トーマスもハルバードを構えた。


「この前は、一瞬だったわね。今度は楽しませなさいよ」


 ボーレンは帽子のツバを僅かに持ち上げながら言った。


 そうして、互いに睨み合う。

 最初に動いたのは、ボーレンだった。


 ――ダンダンダンダンダンダン!!


 2つの拳銃を引き抜き、撃ちまくる。

 その尽くを、アルヴィンたちは躱した。


「驚いたわ。前回、見られているとはいえ、ちゃんと対応できるなんて」


「なるほど、仕組みがわかったぜ。魔術で弾を込めているな?」


 1発撃つごとに弾と火薬を込め直さないといけない銃をどうやって連射しているのか?

 その答えにトーマスは気がついたらしい。


 ボーレンは目を見開いたが、すぐにニタリと笑う。


「……正解♪ まぁ、それ以外にないっか」


 ボーレンはわざとらしく肩を竦めて言った。


「強力な火薬と頑丈な弾丸を銃の中に生成する器用な魔術だな。銃身も強化して耐えられるようにしてやがる」


 トーマスは実に興味深そうに言った。


「実にユニークな魔術だね。初めて見るよ」


 アルヴィンも感心している。


「お~、すごいすごい! アンの魔術を完全に理解しているぅ!」


 カーシュは手を叩いて称賛した。

 実に芝居がかっている。


「理解できたからってアタシに勝てるとは思わないことねッ! アタシのリロードは革命レボリューションよッ!」


 ボーレンは再び、拳銃を連射した。

 アルヴィンたちも今度は躱すだけでなく、前に踏み出した。


「やれやれ、ボクも戦わないといけないようだね」


 カーシュの周囲に氷の槍が浮かぶ。

 その数は12本。


「それっ!!」


 掛け声と共に氷の槍が一斉にアルヴィンたちに向かう。

 トーマスは鉄の壁を作り出す。

 アルヴィンは素早く壁の陰に飛び込んだ。


 そう――光沢のある鉄の壁だ。

 より強力な魔晶石を身に着けた結果、石だけでなく、金属まで作り出せるようになったのである。

 アルヴィンたちの戦力は確実に、大きく、上昇していた。


 氷の槍を凌ぎながら、トーマスは鉄の壁を前進させた。

 

「こいつは僕に任せてくれッ!!」


 アルヴィンは壁の陰から飛び出すと同時に、火炎弾をカーシュに向けて、投げつける。

 カーシュは氷の壁を作ってそれ防ぐが、その間にアルヴィンは接近する。

 アルヴィンは剣で斬りかかるが、カーシュは氷の剣を作り出して対抗する。


 ――鉄の剣と氷の剣が激しくぶつかり合う。


 アルヴィンが初めて経験する魔術師同士による本気の剣術戦だ。

 これは通常の剣術とははかなり異なる。


 例えば、間合いが遠い。

 身体強化した魔術師はとてつもなく素早いからだ。

 また、跳躍力が高まっているため、より立体的な戦いになる。


 常識は通用しない。

 いや、それが魔界の常識だったか――?


「ミアを……返せ……ッ!!」


「そんなこと言われても、連れてきてないからな~」


 一方で、トーマスとボーレンも接近戦を始めた。

 トーマスのハルバードを華麗に躱しながら、ボーレンは魔弾を放つ。

 それをまたトーマスが器用に躱す。


「アンタ、接近戦なら勝てると思ってんの?」


「勝てるぜッ!」


 トーマスのハルバードを、ボーレンは左の銃で受け止めた。

 好機とばかりに右の銃でトーマスの心臓を狙って撃つ。

 しかし、射線上にトーマスの左掌があった。


 トーマスの左掌は魔弾を止めた。

 これは完全にボーレンの予想を超えていた。

 そのまま、左拳がボーレンの顔面を打つ!


 そのまま、トーマスはハルバードでボーレンの心臓を貫いた。


「――ぐはっ!!」


「お前の魔術は初見殺しに過ぎない。慣れちまえばどうにでもなる」


「……そ……ん……な……」


 そのまま、ボーレンは倒れて、動かなくなった。


 だが、これで安心はできない。

 アルヴィンの方を見れば、かなりの接戦である。


「社長、援護するぜッ!!」


 トーマスは多数の鉄球を生成すると、カーシュに向けて連続射出した。


「ちっ!!」


 カーシュは慌てて氷の壁を作って防御する。

 だが、高速で飛来する鉄球のパワーはとてつもない。

 

 ――バリーン!!


 氷の壁は維持しきれず、砕け散る!

 さらに残りの鉄球がカーシュにぶつかる。

 身体強化しているとはいえ、これはたまらない!


「やあああああああああああああッ!!」


「ぐはっ!!」


 ここでアルヴィン渾身の斬撃がカーシュに止めを刺した!


「意外と手こずったな……」


「やっぱり、本気を出せないとこんなものか……」


「人間相手だからか?」


 トーマスはギロリとアルヴィンを睨む。


「いや、彼らの持ち物に用があるわけだろう? まとめて焼き尽くしてしまうのはまずいからね」


「なるほど、確かにそうだな」


 トーマスは感心した様子で深く頷いた。


「さぁてと、勝負はここからだよ」


「そうだな!」


 そして、2人はそれぞれ倒した相手の持ち物を漁り始めた。


「見つけた! 相手のアジトがわかる地図だ!」


「やったな! ふむふむ、さすがに敵も拠点は上界に築いているのか……」


 こうして、アルヴィンとトーマスは喜びを分かち合った。


「ところで、初めて人を殺した感想はどうだ?」


「特に何も……。魔物を倒したの同じかな」


「それでいい。実際そうだからな」


「ごめん、嘘。やっぱり気分は良くない」


「まぁ、実際にできたのだから大丈夫だろう」


 そう言って、トーマスは無理やり自分を納得させた。

 結局、アルヴィンの戦力に頼らざるを得ないからだ。


「クラリッサはどうかな?」


「俺の勘だが、聖騎士サマは大丈夫だ」


「そうなの?」


「アイツは目的のために迷いなく行動できるタイプの人間だと思っている」


「確かにそうだね」


 アルヴィンは強く同意した。


「とりあえず、死体はどうする?」


「さすがに持って帰って埋葬ぐらいはするよ」


「やれやれ」


 トーマスは肩を竦めた。

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