第15話 伝説との戦い
3人は息を殺して進み、ドラゴンの側を通り抜けた。
そのまま10メートルほど離れる。
感じる“圧力”もかなり小さくなった。
「ここまで来れば大丈夫かな」
ちらりと様子を伺う。
大丈夫ではなかった。
ドラゴンは目を覚ましており、アルヴィンと確かに目が合った。
「――――――――!!」
そして、すぐに起き上がった。
ものすごい勢いで“圧力”が膨張する!!
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
――大気を激しく震わす咆哮!
「とりあえず、走るんだ!!」
その号令が発せるられるよりも早く、3人は全力で走り出した。
それを逃すまいと、ドラゴンは火球を吐き出した。
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
巨大な爆発で吹っ飛ばされて、何とか耐えることができたのは、事前の覚悟のおかげだろう。
だが、何発も喰らうわけにはいかない。
「やっぱり、先制攻撃した方が良かったんじゃない?」
アルヴィンは苦笑いしながら言った。
「……結果論だ」
トーマスは眉間にシワを寄せて答えた。
――バサアアアアアアッ!!
ドラゴンが3人のすぐ近くに
「しょうがない。クラリッサ、とりあえずいつもの連携技いくよ!」
「わかりました」
そう返答するが早いが、無数の蔓がドラゴンの足に絡みつく。
とりあえず、クラリッサの蔓で動きを封じる。
これが彼らの定石となりつつあった。
「――取ったッ!」
アルヴィンは炎に包まれた刃をドラゴンの首に振り下ろす!
――ガチン!!
あろうことか、アルヴィンの剣まで折れてしまったのだ……。
「……嘘……だろう……?」
ドラゴンは恐ろしいパワーで蔓を引きちぎると、愕然としているアルヴィンを前足で払う。
それをモロに喰らい、転がるアルヴィン。
「――これならどうだッ!?」
トーマスは岩石を飛ばす。
大してダメージは与えられないが、とりあえずドラゴンの気を引くことはできた。
その隙にクラリッサは急いでアルヴィンを回復した。
「へへへ……根本的に生物としての格の違いを感じるね……」
アルヴィンは苦笑いをする。
「――何を今更、そもそも人間なんて貧弱な生物です。道具を使って何とか補っているだけです」
クラリッサはこの状況でも比較的冷静に見える。
「その“道具”も折れちゃたケドね……。う~ん、道具……道具ねぇ……」
ブツブツ呟きながら、アルヴィンは荷物を漁る。
そして、取り出したのは――先程採取した魔晶石だ。
「それは――!?」
クラリッサはそれを見て、アルヴィンの意図が汲めた。
公社では魔晶石を加工し、腕輪に嵌め込んでいる。
それは身に着けやすくするためであり、そうしないと使えないというわけではない。
「クラリッサもここから取って。いい感じに砕けたものがあるから」
アルヴィンは魔晶石の入った袋をクラリッサに渡した。
そして、自身は左右の手にそれぞれ魔晶石を握った。
――力が溢れてくる。
間違いなく、腕輪に使われているものより品質が良い。
この力で急いでトーマスを助けなくては!
今まさに、太い尻尾が、トーマスを撃とうとしていた。
回避は間に合わない。
トーマスは防御の覚悟を決めたが、素早く割り込んで来る影があった!
――バアアアアアアン!!
アルヴィンの拳が、ドラゴンの尻尾を止めたのである。
「――グオオオオオオオッ!!」
思わぬ力にドラゴンは困惑したのだろう、巨大な咆哮で威嚇する!
「トーマス、クラリッサから魔晶石を貰ってくるんだ」
「――――そうか!!」
トーマスはすぐに意図を理解した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
アルヴィンは素早く動き回りながら、炎を纏った拳でドラゴンを打ち続ける。
たまらずドラゴンは距離を取り、火球を放つ。
「そんなものおおおおおおおおおおおッ!!」
飛んでくる火球に対して、アルヴィンは自ら距離を縮め――蹴飛ばした。
火球はドラゴンの後方上空で爆発する。
飛び上がろうとしたドラゴンだった、上手く浮上できない。
またしても蔓が絡みついているが、今度は遥かに頑丈で引き千切れないのだ。
そして、いつの間にかトーマスがドラゴンの“目の前”にいた。
愛用のハルバードを構えている。
「――勝負だッ!! トカゲ野郎ッ!!」
――グシャアアアアアアアアアッッ!!
その一撃はドラゴンの脳天を打ち砕く!
トーマスは着地し、ドラゴンの巨体は倒れ、動かなくなった。
「ハァハァ……やったみたいだね」
アルヴィンはそう言いながらへなへなと座り込む。
「ああ、やったぜ……」
トーマスも同じように座り込んだが、とても爽やかな表情をしていた。
「それにしても、採取したばかりの魔晶石を使うとは、さすがの機転ですね」
「そうでもねぇ。“俺たち”だって最初は腕輪になんかにせず使っていた。――とはいえ、採取した魔晶石がここまでの力を秘めていたとはな」
「まぁ、賭けではあったよ」
アルヴィンが握っていた両の掌を開くと、細かく砕けた魔晶石が転がり落ちた。
打撃の衝撃に石が耐えられなかったのだ。
「あー、もったいねぇ~。こっちはこうだからな」
トーマスはニヤリと笑って自分の腕を見せる。
そこには公社の腕輪だけでなく、蔓が巻き付いていた。
「その蔓……」
アルヴィンは目を見開いた。
魔晶石がキラリと輝く。
「私の魔術で即席の腕輪としました。この方が手が自由に使えます」
それを聞いて、アルヴィンはとても感心した。
「良いアイデアだね! 魔術はパワーだけじゃくて、使いこなす知恵が大事ということかな」
アルヴィンは笑みを浮かべながら言った。
「いや~、史上初、本当にドラゴンを倒した者になっちまったか~」
さすがのトーマスも表情を綻ばせる。
「とりあえず、ドラゴンの死体はどうしましょう?」
一方のクラリッサはやはり冷静だった。
「せっかくだから、社員の皆にも見せたいけど、さすがにこれをそのまま持って帰るのは無理かな……」
「牙など、一部だけ持って帰るのはどうでしょうか?」
「それはいいね」
「全部を持って帰れないのは確定だから、とりあえず、食っていかねぇか?」
「よし、準備しよう!」
そして、手分けして準備を始めた。
「せっかくだから、いろんな部位をちょっとずつ味見しないとね」
首、胸、もも、皮、舌――様々な部位から肉を切り取った。
公社特性の固形燃料をセット。
アルヴィンの魔術で火を起こし、肉を焼く。
塩とエドワード特製調味料をふりかけて完成だ。
早速、食べ始める。
「――硬いですね。身体強化しないとまともに食べられないとは、食料としてあるまじきことです」
そう――ドラゴンの肉はやはり硬かったのだ。
「そう言いながら、モリモリ食ってるじゃねぇか」
「何も矛盾しません」
クラリッサはやはり涼しい顔をして言った。
「味は悪くないんだよね。しっかり煮込めば普通に食べられそうだね。エドワードならなんとかしてくれそう」
「美味いのは否定しないが、リスクに見合った美味さかと問われれば怪しいモンだ」
本物の酒はなかったが、“ドラゴンを倒した”という勝利の美酒に酔いながら楽しく食事した。
そして、十分に堪能した頃、招かねざる客が現れた。
「オオカミか……」
魔界の巨大なオオカミ――それが群れで現れたのだ。
「ドラゴンの血の匂いに釣られて来たのでしょう」
「だけど、僕らがいるから、手が出せない――といったところかな」
ドラゴンを倒した一行にとって、もはやオオカミは大した脅威ではなくなった。
そして、オオカミの側も貫禄のようなものを感じ取っているのだろう。
「戦うか?」
トーマスはハルバードに手を伸ばす。
「いや、このオオカミたちの目当てはあくまでおこぼれだよ。僕らが去ればそれで済むだろうね」
「無駄な殺生はいらない――ということですね」
そして、一行は堂々と立ち去った。
アルヴィンの予想通り、オオカミたちはドラゴンに向かうのだった。
「それにしても、2本も剣を折っちゃって、物品班に怒られるだろうな~」
アルヴィンは苦笑いする。
「どうして、怒られるのですか? 業務上の自然な消耗です」
「ま、まぁ、そうなんだケドね……」
「お前らいっつも剣を折ってるな」
「いつもではありません」
「トーマスの戦闘技術が高いんじゃないの?」
「まぁ、実践歴が違うからな。ガハハハハハ!!」
一行はそんな話をしながら意気揚々とカーティスタウンへ向けて歩くのだった。
この時、自分たちの拠点が大変なことになっていることをまだ知らなかった。
ドラゴンを倒してくらいでは何も安心できなかったのだ。
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