第14話 落ちた先で

 それは突然過ぎた。

 アルヴィンたちにできたのは、身体強化して落下の衝撃に備えることだけだった。


 ――ドシャ!!


 何とか即死を免れたが、身体中の骨が折れたであろう。

 少なくとも立てる状態ではない。


「か、回復します……」


 クラリッサはまず自分を回復すると、続いてアルヴィンとトーマスを回復した。


「助かったよ」


「やっぱり、持つべきものは回復役だぜ」


 遥か頭上から微かに差し込む光。

 周囲には魔力の粒子が輝いている。

 全くの暗闇ではないが、それでも視界は悪い。


「とりあえず、暗いから灯りを点けよう」


 アルヴィンは火球を浮かばせて周囲を照らす。


「そこそこ広い空間だな……」


 トーマスは周囲を見渡しながら言った。


「真下が空洞になっている場所で暴れまわった結果、床が抜けたってとこかな……?」


「そうだろうな……」


「上よりも瘴気が濃いですね。早く離れましょう」


 さすがのクラリッサの顔にも、わずかに焦りが見られる。


「ちょっと待て、あちこちに魔晶石の鉱床があるぜ!」


 周囲を見れば、魔晶石の鉱床があちこち顔を出している。

 トーマスは質の良い鉱床を選び出すと、ハルバードで叩き割る。

 そして破片を嬉々として袋に詰めた。


「さて、ここからどうするかだね……」


「魔術を駆使すれば元の穴から出られるかもしれませんが……」


 クラリッサは上の穴を見ながら言った。


「さすがに気分が悪くなってきたぜ……」


 魔晶石への適合度の差だろう、トーマスが不調を訴える。

 アルヴィンやクラリッサが同様の状態に陥るのも時間の問題だ。

 この場に留まることはできない。


「一応、この洞窟は続いているみたいだし、進んでみようか」


 アルヴィンが指さした方向には、確かに“道”がある。

 この提案に同意し、3人で進み始めた。


 進めば進むほど瘴気は薄くなり、そういう意味ではやや安心感を得ることができた。


「私の剣は折れてしまいました。魔物に出会ったらどうすればいいのでしょうか……?」


 クラリッサは訊ねた。

 無表情だが、それでも不安なのだろう。


「とりあえず、魔術で戦えばいいんじゃないのか?」


 体調が回復してきたトーマスは、軽い調子で答えた。


「もしかしたら、僕たちは魔術の可能性をまだ引き出していないのかもしれないね」


 ふと、アルヴィンはそんなことを言った。


「つまり、私たちはまだ強くなれると……?」


「そうだと思う。もっとも、一朝一夕でどうにかなるとは思えないけどね。とりあえずは今は僕らがフォローするよ」


「おう、任せておけ!」


 そんな会話をしながら一行は進むと、やや広い空間に出た。


「うぉおおおおおおおおおお!!」


 突然、トーマスが叫びながら高速で上昇した!


「危ないっ!!」


 とっさにクラリッサは蔓を伸ばすと、トーマスを捕まえて引っ張る。


 間一髪、トーマスは魔物の牙を免れた。

 巨大なクモが天井に潜んでおり、糸でトーマスを捕らえたのだ。


 トーマスはクモとクラリッサの間で綱引き状態となった。


「これでも喰らえ!!」


 アルヴィンは火球を投げつけると、クモは怯み糸が切れた。

 糸でまともに身動きが取れないトーマスは落下して、地面に叩きつけられる。


「――ぐへっ!!」


 身体強化して備えていたため、大きなダメージは受けていないが、それでも痛い。


「今助けるよ!!」


 アルヴィンが上手く糸だけを燃やし、トーマスは自由を取り戻した。


「ふぅ、酷い目にあったぜ。絶対許さんからな!!」


 クモは再び、糸を吐き出してくるが、奇襲でなければ上手く命中しない。


「この地形を活かすぜ!!」


 トーマスの魔術で天井の地形が変化する。

 たまらず、クモは落下した。


 一方で、下側の地面を突出させる。

 結果、落下したクモは突出した地面に刺ささった。

 しばらくはジタバタと藻掻いていたが、やがて動かなくなった。


「俺としたことが、とんだミスをしてしまったぜ」


 勝ったからこそできる、余裕の反省であった。

 一行は再び出口を目指して歩き出した。


 ……………………。


 …………。


 やがて、光が差し込むのが見え、一行は安堵した。

 だが、光に近づくにつれて、謎の不安が襲いかかってくる。

 そっちには行くな――と本能が告げてくる。


「――最初、岩だと思ったのだけど、あれ、生き物だよね?」


 アルヴィンは出口方向を指さして言った。


「まーた、ゴーレムかな?」


「いえ、トカゲでしょうか?」


 その姿は巨大なトカゲに近いが、大きな翼がある。

 

「いや、あれが『ドラゴン』だ――」


 トーマスは伝説の生物の名を口にした。

 その声色には恐怖が滲み出していた。


 伝説の生物ドラゴン――

 絵画そのままの姿で、アルヴィンたちの目の前に現れたのだ。

 そして、それに相応しい“圧力”を感じさせる。


 幸い、“ドラゴン”は丸くなって寝ているようだ。

 おそらく全長15メートル以上はあるだろう。


「――どうする? 先制攻撃してみる?」


「絶対にやめろ。寝ているなら好都合だ、こっそりやり過ごすぞ」


「じゃあ、そういうことで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る