第13話 頑強なる魔物

 探索班は再び出発した。

 上界から下界へ下り、荒野の中を進む。

 前回の結果を踏まえ、より遠くに進んでいる。


 主な目的はやはり魔晶石だ。

 今、身に着けているものより、高品質なものがほしい。


「ところでよぉ、アイツ・・・を残して探索に出て大丈夫か?」


 トーマスは怪訝な顔で訊ねた。

 もちろん、ジェロームの話だ。


「大丈夫だよ、たぶん。ミアは優秀だからね。大丈夫だよ、たぶん――」


 その言葉は自分に言い聞かせているようだ。


「本当に大丈夫かよ……」


 ミアの社長代理としての能力は信頼している。

 だが、さすがにジェロームのような特殊な人物の対応ができるかどうか考えれば心許ない。


「だって、ずっと相手するの面倒だからね……」


 アルヴィンはため息を付く。


「本音が出たな……」


 トーマスは笑いながらそう言った。


「最終的には結果で納得していただく――ということに収束しそうですね」


 クラリッサは他人事のように涼しい顔をして言った。


「まぁ、結果を出すのは絶対だから、それはまぁ、そうなんだケド……」


 アルヴィンはそんな歯切れの悪い答えを返した。

 そんな感じの会話を繰り広げながら進む。


 ……………………。


 …………。


 そして、ついてに一行は新たな瘴気地帯を発見した。

 魔晶石は瘴気の中で見つけやすい。

 自ら危険の中に飛び込むという狂気の行動であるが、彼らにとっては今更であった。


「今回は品質の良い魔晶石が見つかるといいね」


 アルヴィンは目を輝かせながら言った。


「これなんか、品質が良さそうだぜ?」


 トーマスは鉱床を撫でながら言った。

 アルヴィンも覗き込むと、その鉱床にとても惹かれた。

 

「確かに不思議な魅力を感じる。持って帰ろう」


 そう、惹かれた――のだ。

 理由はわからない――というより、上手く言語化できない。

 適合者の能力なのかもしれない。


「それじゃ――」


 そう言って、トーマスはハルバードを振るった。

 

 ――ガシャン!!


 鋭い音がして、鉱床にヒビが入る。

 次の瞬間――地面が激しく揺れ始めた。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


「うわっ!?」


 足元が隆起する。

 

 そして、彼らは信じられないものを見た。

 岩の巨人――とでも呼ぶべきか。


 体長は5メートルほどはあるだろう。

 頭頂では毛髪の代わりに魔晶石の鉱床が生えている。


「トーマス、あれは――何だい?」


「すまん、知らねぇ……」


 アルヴィンとトーマスは揃って戸惑う。


 彼らが今まで相手にしてきた魔物は、あくまで“生物”の延長線上にあるものだった。

 だが、目の前のコイツは動いているが、“岩”だ。

 岩が生き物のように動いているのだ。


 まだまだ魔界は奥深いのだと思い知らされる。

 

「伝説の岩石の巨人――『ゴーレム』を思わせますね」


 クラリッサが何気なく言った一言が、アルヴィンたちの困惑を和らげた。


「そ、そうか! なるほど、ゴーレムなのか~」


「ああ、ゴーレムか! なるほど、そりゃ岩だし動くよな!?」


 いや、混乱の方向性が変わっただけか――?


 アルヴィンたちの事情は関係なく、ゴーレムは重厚な右拳で殴りつけてくる。

 慌てて飛び退くアルヴィン。


 ――ドゴォオオオオオオオオオオン!


 大きな拳が地面に激突し、大地が震える。

 しかし、クラリッサはその隙を見逃なさなかった。

 剣を振りかぶり、渾身の一撃をその右腕めがけて繰り出した!


 ――ガキン!!


 クラリッサの剣の刃が――折れた。


「私の剣が――!?」


 クラリッサは珍しく狼狽える。

 アルヴィンとトーマスも戸惑う。

 とてつもなく力と硬さ、それらがぶつかりあった結果だった。


 戦闘時にアルヴィンたちは、身体だけでなく、武器も強化している。

 それでも、ゴーレムの驚異的な硬さには届かなかったのだ。

 カマキリに折られたのは、あくまで剣を離してしまったからで、条件が違う。

 

「社長、武器では攻撃するな!」


 トーマスは叫んだ。


「わかるけど、どうするんだよ!?」


 アルヴィンは爆発する火球を投げつているが、あまり効果がない。


「これもダメか~」


「岩には岩をぶつけてやるぜ!!」


 そう言って、トーマスは魔術で岩を創出し、ゴーレムに向けて飛ばす。


 ――ドガン!!


 岩はゴーレムにぶつかり、砕けた。

 ゴーレムは多少怯んだように見える。


「まだまだぁあああああッ!!」


 トーマスはさらに多数の岩を創出し、次々とゴーレムにぶつける。

 その様子をアルヴィンとクラリッサは注視していた。


「相手が生物じゃないから、効いているのかいないのかわかりにくいね……」


 アルヴィンはそんな弱音を吐いた。

 動物は傷つけば出血する。

 だが、このゴーレムから赤い血液はおろか、何かの液体が流れ出ることもない。


 何か――何か手はないか?

 必死に考えるアルヴィン。


「ゴーレムは頭部を庇っているように思えます」


 クラリッサはゴーレムの頭部を指さしながら言った。


「そうか! 鉱床が弱点なのかもしれない! だから、鉱床を攻撃されて姿を現したんだ!」


 勝利への活路が見え、アルヴィンたちの動きが冴える。


 クラリッサが魔術で蔓を操り、腕の動きを封じる。

 剛力を持つゴーレムの動きを止められるのはごく短時間だ。

 その僅かな隙にアルヴィンとトーマスが鉱床に両サイドから攻撃!!


 ――ガシャン!!


 鉱床は輝きと共に見事に砕け散った。

 それと同時に、ゴーレムは崩れ始めた。


「やった!!」


 と、喜んだのも束の間――

 アルヴィンたちの足元もすごい勢いで崩れ落ちたのだ。

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