第3話 スキルばかりが無能では無い

 「ふーむ」


 4人が入っても余裕がある広いスペース、ハウスの部屋だ。

 僕はここでスケルトンとゾンビを召喚している。


 獲得したゴブリンのソウルを使って召喚したこの2体、実は弱いのでは無いかと考えている。

 スケルトンは素早いが脆い、ゾンビは力強いが遅い。


 「とりあえず何が出来るか確認からだね」


 「その間に女性陣の私達はご飯作ってるよ〜しずちゃん火と水お願いね」


 「うん」


 僕は紅月に見守れながら召喚した兵に命令を与えた。

 まずは前進と右左折だ。

 基本的な動作でどれ程の違いが出るのか確認した。

 スケルトンの壊れた部分は時間経過で治ったので、多少の無茶は大丈夫。


 動作確認では新しい発見は無かった。

 次に命令を複雑化して見る事にした。


 「スケルトンは走ってジャンプUターンした後に腕立て2回、その後にもう一度走ってを4回繰り返して決めポーズ」


 ポーズの指定は無しだ。

 ちなみに一個一個の動作命令は問題無くクリア出来ている。


 命令を出してから1分が経過し、スケルトンは一切動かない事が分かった。

 複雑な命令だと動かなくなるらしい。

 ゾンビにも同じ命令を繰り出したが結果は同じ。


 「次はどこまで命令のコマンドが適応されるか⋯⋯」


 「何かゲームみたいに面白いな!」


 「そうだね。命令してみる? 反応するのかも気になるし」


 「良いの? やるやる!」


 紅月は楽しそうにゾンビに人差し指を向けた。


 「その場でジャンプ!」


 ゾンビは動かなかった。


 「ジャンプ」


 僕の言葉一つでゾンビはジャンプした。


「なんでだよ!」

 

 スケルトンは動いていない。

 名指ししなくても独自で判断して意思疎通が可能のようだ。

 ゾンビは脳が腐り、スケルトンは脳が無い⋯⋯それでもきちんと思考しているらしい。


 「じゃあ⋯⋯彼の命令を許可」


 通じるかな?


 「良し、行くぞ! ゾンビ、ジャンプだ!」


 ゾンビはジャンプした。

 僕が許可を出せば他の人の命令でも受け入れてくれるらしい。

 紅月が嬉しそうに飛び跳ねている。

 

 同時に命令を何個出して理解して動いてくれるかの検証では三つまでなら可能だった。

 きちんと言葉も理解している、扱いやしい兵なのは間違いない。


 「⋯⋯これだとやっている事は召喚魔法と変わらないのでは?」


 誰かユニークな要素を教えてくれ。

 ネットで転がっているアンデッドを召喚して扱う魔法とやっている事が変わらないんだけど。


 「ははは。まぁまぁ落ち込みなさんな。私だって翼出して空をゆっくり飛べるだけのユニークスキルだもん。現実はこんなもんだって!」


 自虐風に励ましてくれた白銀。

 深川と共に作ってくれたカレーを食べながら、僕は兵の使い方を考える。


 「やっぱり囮と肉壁が使い方的には正しいのかな」


 サラッと漏れた言葉に紅月と深川が反応する。


 「そんなのダセェぜ。召喚したからにはもう仲間だ」


 「私も。魂与えて召喚しているから⋯⋯道具のように扱うのは⋯⋯嫌かな」


 「確かに⋯⋯魂があるなら生きてるんだもんね」


 思考だってしている。

 もはや見た目が違うだけの人間と変わりない。


 「ダンジョンの中では使えないユニークスキルだな。友達は無限に増やせるけど」


 「急に悲しいな!」


 白銀が真っ先に突っ込む。


 「黎弥の弓術は中々に良いからな。期待してるぜ」


 「うん。後衛が増えたのは、純粋に心強い。皆前だから怖かったし」


 「え、そうだったの? 気づかなくてすまん静香」


 「ふぇ? い、いや、そんな謝らなくても」


 アワアワ、オドオドし始める深川を横目に僕はユニークスキルについて考える。

 今のままだと魔法と変わらない。⋯⋯きっと何かが違うんだろうけど分からない。

 だって召喚した兵が弱いんだもん。


 翌日、僕達はゴブリンが蔓延るダンジョンに戻って来た。


 「今日は黎弥を含めた4人での連携を考えながら戦おう。弓矢は魔法よりも素早く撃てるし小回りが利きやすい。俺達が戦っている時に臨機応変な対応に追われるだろうが、大丈夫そうか?」


 「やってみる」


 「その意気だ」


 「私達は矢が飛んで来てもビビらずに戦わないとね」


 白銀が紅月をからかうように言う。


 「今更ビビるかよ」


 ジト目で返した紅月。


 そこからエンカウントしたゴブリンは片っ端から倒して行った。

 深川の魔法は出番が減ったらしいが、強い敵や複数の敵と会った場合必要となるので気が抜けない。

 白銀のスピードに合わせて弓を弾くのは中々に勇気がいる。


 仲間に当たるんじゃないか、外すんじゃないか⋯⋯色々な不安が駆け巡る。

 剣の場合は抜いて構えてからはずっと戦えるが、弓は矢を逐一装填して弦を引く必要がある。その上で狙う⋯⋯。


 「難しいな」


 まだまだ僕の謝速が遅い。

 これだったら居ない方がマシだ。

 ユニークスキルの事ばかり考えていたが、僕自身の訓練も必要だ。


 「ま、最初はそんなもんだよ」


 「⋯⋯いつも慰めてくれるね。ありがとう」


 白銀にお礼を言いつつ、休憩時間が終わった。

 そのタイミングだった。いつもとは違う、異様な気配がした。

 全員が同時に同じ方向を向いた。


 肌が濃い緑、武器にはナイフを持っている。

 ただのゴブリンでは無い。


 「エルダーゴブリン⋯⋯」


 深川が小さく呟いた。

 青ざめる3人。


 「それって⋯⋯熟練級だよな」


 熟練級、普段戦っているゴブリンとは1段階上の強さを誇る。

 一つ上のランクになっただけ⋯⋯と考えるには甘すぎるだろう。

 3人の青ざめたこの反応、そして冷や汗が止まらない程に感じる冷たいプレッシャー。


 「皆構えろ。相手は逃がしちゃくれない」


 白銀と紅月なら逃げられる可能性はある。しかし、後衛の僕と深川は逃げられない。

 だから紅月は戦う判断をした。


 剣を抜く紅月、双剣を抜く白銀、2人は同時に地を蹴った。

 白銀がパーカーのチャックをシュッと全部閉める。

 最も加速した白銀がエルダーゴブリンの背後に回った瞬間⋯⋯ゴブリンは僕達の方へ加速した。


 「ッ!」


 白銀が一番速く、そして自分の背後に来ると分かっているかのような反応だ。

 ⋯⋯本当に分かっていたのか?

 気配を殺してずっと僕達の戦いを見ていたとしたら?


 ⋯⋯僕の召喚したゾンビとスケルトン、彼らは思考する。考える知性と力がある。

 野生のゴブリンが知能で死霊に劣る⋯⋯なんて事は無いのだろう。


 目の前のゴブリンは僕達を殺せると思って、満を持して襲って来ている。

 仲間は足枷とでも考えているのだろうか。

 そう思わせる程の速度で、紅月の横を斬撃を躱し素早く通り抜ける。


 真っ先に⋯⋯僕と深川を狙って来た。

 戦いの基本⋯⋯後衛を先に潰すらしい。


 「ギシャ!」


 僕を刺し殺そうとするナイフが迫る。

 家の方針かなんかで、幼い頃から色々な習い事を転々として来た。

 そんな僕は空手などの武術も少なからず嗜んだ事がある。


 こんな時に、その経験が生きる。


 「来るな!」


 反射だ。考えるより先に本能が体に命令を出してキックを放った。回避されたが。

 予想外の一撃にゴブリンの目が血走る。


 即座に深川へと狙いを変えるゴブリン。

 僕は矢を番えるがその時には既に、ナイフの射程圏内に深川がいる。


 「させるかよ!」


 背後を取った紅月に気づいたゴブリンは横にステップして回避する。

 深川を守るように前に出る紅月。僕が矢先を向けると、ゴブリンは立ち止まり周囲の確認をした。


 「今度はそう簡単に逃がさないよ」


 白銀がゴブリンの正面に入り、銀閃を複数走らせる。

 ゴブリンは防御が出来ず、銀閃の数傷が出来、鮮血が舞う。

 このまま押し切れる、訳も無い。


 攻撃を受けている間に隙を見出し、白銀の腹に強烈な蹴りを入れた。

 攻撃に集中していた白銀は大打撃を腹に受け、表情を歪めながら後退する。


 「ゴホゴホ」


 「しろっ」


 僕が叫ぶよりも前に紅月がゴブリンに特攻した。

 戦闘はまだ、終わっていない。


 「らっ!」


 紅月渾身の横薙ぎは回避され、反撃のナイフは命中する。

 痛みに悶絶する事無く、紅月は反撃の刃を振るった。

 虚しく空気を斬る中、避けた先を狙って深川が火の球を放った。


 軽いフットワークで立て続けに襲い来る攻撃を回避したゴブリン。

 戦いの中でも成長しているのをヒシヒシと感じる。


 「当てる」


 僕は何もしていない。何も出来ていない。

 せめて1本でも当てて、貢献する。


 僕はゴブリンを狙って矢を放った。

 ⋯⋯だが。


 「私はまだ戦えるから⋯⋯」


 ゴブリンの前に白銀が出て来てしまった。

 全くの予想外だ。


 「危ないっ!」


 叫ぶ僕。


 「くっ」


 白銀もすぐに反応して回避行動を取るが⋯⋯遅い。


 「あがっ」


 「ッ!」


 白銀の細く綺麗な太ももの肉を⋯⋯僕が放った矢が⋯⋯かすり抉った。

 垣間見える肉、主張激しく流れ出る血。

 しかも矢はかすった事により軌道を変え、速度を落としてゴブリンの横に落ちる。


 「⋯⋯ぐっ」


 白銀の端正な顔が歪む。痛みに悶え、声を殺す。

 隙だらけだ。

 僕がカバーしないといけない。魔法では間に合わない。

 ⋯⋯なのに、僕は手が震え⋯⋯ただ立つ事しか出来なかった。


 「翼妃!」


 紅月がすぐにカバーに入り、隙だらけの白銀に襲い来るナイフをガードした。

 だが、体勢が悪かったのかすぐに次の攻撃が来て紅月の体を浅くだが広く切り裂いた。


 「あがっ」


 紅月から飛び出る血を見て、僕は世界から孤立するのを感じた。

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