第2話 おいおい使えねースキルさんだな

 近くの銭湯で風呂に入り、買って貰った下着や服に着替える。

 晩御飯は当番制で今日は白銀が作った。火や水は深川が魔法を使って対応した。

 カレー⋯⋯美味しかった。


 寝る時はカーテンで中心を区切り、出入口側が男が寝る場所だった。


 「これで俺は寂しく一人で寝る必要が無くなったぜ」


 「⋯⋯寝袋なんて初めて使った。ここは本当にダンジョンなんですよね?」


 「敬語やめろし。そうだぜ。呑気なもんだろ。ここでは俺や黎弥みたいな家出した少年少女、或いは200番台に住むホームレス達がグループごとに集団生活している。このハウスを用意した人をボスとして」


 ここにはルールがある。

 悪い事はしない事、仁義外れな事はしない事、毎月決まった日に決まった金額を渡す事。つまり上納金。


 「ここがダンジョンなら⋯⋯ステータスカード」


 願うと俺の手にステータスカードが現れた。

 本当にダンジョンだ。

 ステータスカードはダンジョンに入れば呼び出せる。外に出ると元あった位置に戻るらしい。

 本当に不思議だ。


 「黎弥はどんなスキルだった?」


 「⋯⋯死霊術、ユニークスキルだった」


 「え! ほんと! 私と一緒だ! ま、私のは使えないゴミスキルだったんだけどね!」


 カーテン越しに白銀が会話に混ざる。

 他の二人のスキルも聞きたいところだが、そんな勇気は僕に無い。


 ステータスの力はダンジョン内なら常に発動される。

 外だとステータスカードを持っている時にオンオフ切り替えられる。

 人間の体に魔力を保管出来る場所があり、ステータスの力を起動している時に魔力が全身に駆け巡る。

 魔力はモンスターを倒したり、ダンジョン内で鍛えていると増える。

 魔力は人の身体能力を強化したり、スキルと言う超常現象を使えるようになる。

 簡単に言えばレベルシステムだな。


 外でステータスの力を使われては国は崩壊する。だから公的機関であるギルドが管理するのだ。

 ギルドは魔力の流れを探知する機械を使ってダンジョンが発生する場所を予測出来る。


 ギルドに見つからないダンジョン⋯⋯実在するのか?

 不思議だ。


 「明日は早速ダンジョンに行く。黎弥も早くこの生活に慣れて欲しいからな。俺達と同じチームに登録したからな」


 専用のアプリを使って挑むダンジョンの場所にステータスカードを運んで貰う。

 中に入れば関係ないのだが、外で買って用意した物を事前に登録したい人もいるようで、このような仕組みとなっている。


 翌朝、何事も無く本当にダンジョンで過ごした僕。

 朝は紅月がトーストエッグを作ってくれた。美味しかった。

 

 ゴールデンウィークだから学校の心配は無く、ダンジョンに向かった。


 「先に情報共有な。今回行くダンジョンは洞窟の迷路みたいなところだ。主なモンスターはゴブリンな。ちなみに俺のスキルは五感強化。五感が優れてる。稀有レア等級だ」


 「私は昨日言った通りユニーク! 銀翼って言うカッコイイ名前だけど飛ぶ事しか出来ん! しかも走った方が速いから基本使えない」


 「私は平常コモン等級、薬物耐性。回復薬とかの治療系薬物も効果が下がるからかなり酷い。早く新しいスキル手に入れて切り替えたい」


 スキルは一つまで効果を発揮出来る。

 新たなスキルを手に入れるにはそれ用のアイテムが必要らしい。或いは稀に増えているらしい。


 「えっと僕は死霊術⋯⋯ユニークなんだけど、使い方がさっぱりです」


 「ネクロマンサー的な? 骸骨とか召喚出来るんじゃない? そんなスキルや魔法があったはずだよ」


 「そうだな。まずはダンジョンで確かめようぜ」


 明るい人達だ。

 その中に入っている深川⋯⋯なんとも不思議だ。


 「私がこの二人の中にいるの、違和感?」


 「心を⋯⋯読まれた?」


 「簡単な憶測⋯⋯いずれ分かるよ。貴方は良い決断をした。勇気ある決断だ。この決断は良い方向に向かう⋯⋯と思う」


 「そうですか」


 「うん。敬語は要らない。皆仲良く、それがこのグループのモットー⋯⋯って陽介が決めてるから」


 「そうですか」


 ゲートの前にはギルドの人がおり、紅月がスマホの画面を見せるとステータスカードを人数分受け取る。


 「ほら」


 僕は自分のステータスカードを受け取る。

 久しぶりの弓矢だが、上手く出来るだろうか?


 「早速行こうぜ」


 中に入ると、そこは本当に洞窟のような空間だった。

 ステータスを得てから何もしてないので身体能力が向上した気配は無く、入った瞬間に手には弓、肩には矢の入った矢筒を担いでいる。

 中は誰かが開拓してくれたのか、明かりが用意されており明るかった。


 「んじゃ、黎弥。スキル使ってみて」


 「⋯⋯どうやって?」


 「⋯⋯そんなの俺が知る訳無いだろ。俺と静香は常時発動系パッシブだし」


 「私の時は⋯⋯出ろー! ってやったら出たよ」


 言葉に合わせてグンッと伸びて、ぱぁっと両手を広げる白銀。


 そんな適当な感じなの?

 僕は地面に手を向ける。


 「で、出ろー!」


 「あははははは!」


 白銀がバカ笑いしたので一生こんな風にはやらない。

 ⋯⋯だが、何も出なかった。⋯⋯でねーじゃん。

 恥を晒した。クソっ。今後はもっと考えて行動しよう。


 「骸骨出ないな」


 「いきなり出ても、私は怖い」


 「やばい、腹、痛い」


 白銀だけだぞそんなに笑ってるの。


 「収穫はありました。ソウルってのが必要らしいです」


 ソウル⋯⋯魂かな?

 ふんわりそう感じる。不思議だ。


 「⋯⋯それどうやって集めんだ?」


 「敵を倒したら良いんじゃないかな?」


 「そうかもです」


 「く、苦しい」


 「翼妃は笑い過ぎだな」


 進んでいると、すぐにゴブリンに接敵した。

 僕は連携とか出来ない。どうしようかと悩んでいると、紅月が飛び出した。


 「静香は魔法温存、翼妃は俺のサポート! 削るぞ!」


 「りょーかい!」


 白銀が加速する。

 彼女はシーフ、トラップについて学び解除の技を伸ばしているらしい。

 そして戦闘では前衛、二本のショートソードで戦う。


 ゴブリンを速度で翻弄し、浅く斬る。

 翻弄されたゴブリンは隙だらけ。

 紅月がロングソードを両手で持ち、深く背中を斬った。


 紅月の役目はソードマン。完全な前衛アタッカーだ。


 「黎弥!」


 「はい!」


 僕は即座に弦を引き、狙いを定めて矢を放った。

 矢は弧を描くようにゴブリンに刺さった。上手いとは言えない。

 だが、それで絶命したのか、身体を粒子分解させて消えて行った。

 魔力に還元されるらしい。


 ボスを倒さない限りモンスターは魔力循環して無限に蘇る。

 地脈の魔力の流れを戻さない限り、ダンジョンにモンスターは蔓延る。

 モンスターは稀にアイテムを落とすらしいが、残念ながら今回は無かった。


 「どう? ねぇ! どう?!」


 白銀が興味津々と言わんばかりに近寄って来る。

 綺麗な顔が近づく。

 女性慣れしてないので照れてしまう⋯⋯僕は目を逸らしながらソウルに意識を向ける。


 「一個⋯⋯増えてる」


 ぼんやりと頭に浮かぶソウルとその数。


 「良い感じだな。召喚出来るか?」


 「⋯⋯その前に、仲間が倒したらソウルはどうなるのか、試したいです。よろしいでしょうか」


 「敬語は辞めろおおお! それとやりたい事は遠慮せずに言え。仲良くなる一歩だ。他の二人は良いか?」


 「私は全然良いよ!」


 「私も⋯⋯魔法で活躍しているとこをちゃんと見せたい」


 「決定だな。行くか」


 僕は移動しながらステータスカードを確認する。

 ステータスカードにはスキル、装備以外に討伐数と言う欄が存在する。

 そこの一般級の欄の数字が0から1になっている。

 下から二番目のランクだ。


 この討伐数に応じて報酬が手に入る。これが一般的なハンターの収益となる。


 新たなゴブリンを発見し、同じような流れで攻撃を行った。

 ただ、フィニッシュに深川の火の玉が使われた。

 仲間が倒した場合、ソウルは増えなかった。


 ⋯⋯しかし。


 「あれ、見えますか?」


 僕はゴブリンが倒れた位置を指差す。


 「「「見えない」」」


 「なるほど」


 僕にはぷかぷかと人魂のような物が薄らと浮かんでいるように見える。

 あれがソウル⋯⋯どうやって回収すれば良いんだろう?

 まずは触れてみる⋯⋯僕の体に吸い込まれてソウルが増えた。


 「自分で倒した場合ソウルは自動的に回収出来る、他の人が倒した場合ソウルはその場に残るから手動で回収する⋯⋯だろうか?」


 これは仲間だからソウルが残ったのか、赤の他人でも同じなのだろうか?

 後者でも適応されるならあちこちにソウルが落ちてないとおかしい。

 しばらくダンジョンで探索してソウルが全く見当たらないのなら、ソウルは時間経過で消えると結論付けが出来る。


 「ねね! 召喚しようよ! 召喚!」


 考え込んでいた僕に白銀がワクワクとしたキラキラな眼差しを向けて来る。

 彼女はダンジョンの中の装備はロングスカートでは無くショートパンツで投擲用ナイフを入れたホルダーを太ももに装備している。

 ぴょんぴょん跳ねて急かして来るのでナイフがガシャガシャと音を立てている。


 「良いですけど⋯⋯どうやって召喚するんだろう?」


 「そこから!」


 そりゃそうでしょ。


 「僕は元々ハンターの道に進む気は無かったの。詳しくないの!」


 「今の良い感じだぜ黎弥。もっと自分を出して行こう!」


 「話を変えないで」


 深川がゆっくりと歩み出る。

 装備である杖の先に付いている魔法発動用の魔石を見せながら。


 「もしかしたら魔法と感覚が似てるかもしれない。魔法を使う時は、魔法への理解、行使するまでの過程や結果を想像、及び計算が必要。もちろん適正とか他にも色々とあるけど⋯⋯スキルだから理解と想像があれば使える可能性がある」


 「ありがとう。一番頼りになる」


 「「えぇ」」


 頼りない前衛を放置し、僕は地面に手を触れる。

 死霊⋯⋯死んだ者⋯⋯骸骨?

 スケルトン⋯⋯ゾンビ⋯⋯。動く死体。


 「召喚」


 二つの紫色の魔法陣が浮かび、ゆっくりと魔法陣の中心からスケルトンとゾンビが出て来た。


 「おお!」


 初めての召喚に僕は少し興奮した。

 ⋯⋯てか二体同時に召喚出来るとかやるじゃん僕。⋯⋯もしかして凄い事だったりしないかな?

 ⋯⋯皆の反応を見るに特別凄い事じゃないのかもしれない。もしかしたら少ない?

 そう考えるとちょっと悲しい。とりあえず何かするか。


 「⋯⋯か、壁まで歩いて」


 命令すると、スケルトンはすぐに壁に着いたがゾンビは遅かった。


 「⋯⋯壁を殴って!」


 スケルトンは素早く殴って⋯⋯その腕を分解した。

 ゾンビは少し遅く感じたが、音はドンっと響いて良かった。

 骨だけのスケルトンは速く脆い。

 腐肉のゾンビは遅いが力強い。

 ⋯⋯なるほど。


 「⋯⋯これって使えなくない!」


 ソウルとか必要な物があるスキルなのに!

 出現自体がとても希少とされるユニークスキルなのに!

 ちくしょう!

 無能な僕には無能なスキルがお似合いってか! 良い性格してますねぇ神様はさぁ!


 「私と一緒!? オソロー!」


 「まだ決まった訳じゃない。色々と試そうぜ」


 「魔法は理解が必要。まだまだ分からない事が多い。諦めるには早い」

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