陰キャモブ、家出して不良グループに絡まれダンジョン攻略を始めたらリア充になっていた〜英雄も勇者も魔王も興味が無い。ただ仲間と楽しみたいだけだ〜

ネリムZ

第1話 家出と新生活

 僕は必要とされていない子だ。

 才能のある二人の兄とは違い、僕には何も無かった。

 両親からも期待されず、生きている意味すら分からず生活していた。


 「おい黎弥れいや


 「ッ!」


 いつぶりだろうか、次男であり僕の兄、白夜が声をかけて来た。

 何か粗相をしてしまっただろうか?


 「お前ももう高校二年生だ。八神やがみ家の名を背負うにはそれなりのスキルがいる。今の時代プログラミング技術は必須と言っても過言じゃない。暇だから俺が教えてやるよ」


 「⋯⋯ッ!」


 今まで無関心⋯⋯むしろ僕を嘲笑う性格をしている白夜の申し出。

 警戒してしまう。


 「どうする?」


 「⋯⋯お願いして良い⋯⋯ですか?」


 「なんで兄に敬語なんだよ」


 笑いながら、僕は兄の部屋に案内された。

 警戒はしているが、それ以上に兄に構って貰えたのが嬉しかった。

 高校二年生になったばかりだが、今までこんな事は無かった。だから、何も疑わなかったんだ。


 翌朝、家は大騒ぎだった。

 家事代行人の人達が凄く焦った様子だ。

 僕を見るなり、ヒソヒソと話してから離れて行く。


 一体何なのか、気になった。

 だけど家の中での僕の立場は低い。

 モヤモヤとした気持ちを晴らすべく、スマホを開いてSNSを流し見する。


 「⋯⋯な、んだこれ」


 『八神グループ重大機密情報漏洩か』


 そんな記事があった。

 見て行くと、そこには⋯⋯。


 『八神家の三男が家庭環境に嫌気が差し情報をライバル企業に送ったのか』


 と書いてあった。

 当然僕には心当たりが一切無い。

 証拠が無ければ僕は無実を証明⋯⋯証拠?


 「⋯⋯もしかして」


 昨日、初めて兄から何かを教わった。

 プログラミング⋯⋯パソコンのキーボードを叩いた。


 ⋯⋯もしも白夜がこの失敗或いは悪事を起こした張本人だとすれば。

 僕は罪を擦り付けられるだろう。


 「⋯⋯そん、な」


 ゆっくりと、僕の手からスマホが落ちる。

 普段から無関心の両親⋯⋯こんな事が知られたら一体なんて言われるだろうか。

 ⋯⋯僕はまだ家族としていられるのだろうか?


 「はぁ。はぁ」


 恐怖、混乱により僕の呼吸は荒くなる。

 どうして良いか分からず、怖くなって逃げ出した。

 行く宛てなんて僕には無い。ただガムシャラに逃げ出した。


 「ぜぇはぁ。ぜぇは」


 一体どこまで走っただろうか。

 場所も分からない。ただひたすらに走った。


 路地裏にしゃがみこみ、俯いた。


 「スマホも置いてきてしまった⋯⋯僕は⋯⋯これからどうすれば良いんだろう」


 ただ時が過ぎるのを待った。

 何かが変わる訳では無いけど、僕にはただ時の流れに身を任せる事しか出来なかったからだ。


 「⋯⋯そこの君、どうしたの?」


 「⋯⋯」


 「おーい。聞こえてますかー」


 「⋯⋯」


 「俯いている君に声をかけてるんだよ?」


 「⋯⋯僕ですか?」


 「この辺に君以外に俯いている人がいるのかね?」


 僕は周りを見渡すが、いなかった。

 僕らしい。


 可愛らしい声を投げかけて来たのは⋯⋯同年代くらいの女子だった。

 シルバーカラーのキラキラでサラサラなロングヘアー。

 サファイアのように蒼く輝く透き通った瞳。

 人を惹きつける柔らかな笑みだが、顔付きは凛々しくモデル顔負けの美しさがあった。


 片耳にピアスを着けており、影が出来るくらいに大きな胸部⋯⋯僕は慌てて目を逸らす。


 「エッチ〜」


 胸を両腕で隠しながら腰をクネクネさせ、軽口を叩く。


 「ごめんなさい」


 「嘘嘘。それよりどうしたのさ。話聞かせてみ」


 彼女は僕の隣にどさりと座り込んだ。

 新手のカツアゲかな?


 「僕、お金持ってませんよ」


 「カツアゲじゃないよ!」


 「⋯⋯」


 僕は5月なのに着ている黒いパーカーを見る。


 「パーカーの裏に武器でも隠していると思ってる? これ着てると落ち着くんだよ。それに私スカート長いっしょ? 身体を隠してる方が安心するの。話す気になった?」


 「なりませんけど」


 名前も知らない相手に何かを話すつもりは無い。怖いし。


 「⋯⋯私は白銀しろがね翼妃つばき。よろしく。翼妃って呼んでね」


 「僕は⋯⋯黎弥です」


 「良い名前だね。話すまで待ってるからね」


 僕は早くどこかに行って欲しかったので、掻い摘んで話した。


 「家出か」


 「うん」


 「でもさ、どうやって生きて行けば良いか分かんないでしょ?」


 「うん」


 「私も同じだからその気持ち分かるよ〜。良し決めた! 私と一緒に来なよ」


 「闇バイトはしません!」


 「闇バイトじゃないよ! 私をなんだと思ってるのよ!」


 不良では無いだろうか?

 だが口に出すのは止めた。


 「仕方ない。こうなったら呼ぶか」


 「ヤクザ!」


 「違うわ! 失礼な奴だな! 仲間だよ仲間。ちょいまち」


 スマホを操作してから数十分後、二人の男女がやって来た。

 赤目赤髪の筋肉が見るからに凄い男と茶髪ショートで不良とは縁もゆかりも無いような大人しそうな女の子だ。


 「うっす。話は聞いたぜ黎弥。俺は紅月陽介あかつきようすけ。陽介だ。よろしくな。一応このグループのリーダーだ」


 「私は深川静香ふかがわしずかです」


 「えっと⋯⋯リンチ?」


 「黎弥ってどんな生活してたの? 私凄く気になるなんだけど」


 グイッと身体を寄せて来る白銀から僕は一歩距離を取る。


 「黎弥。俺達は全員家出して生活してる。そして悪い事は一切していない。信じて欲しい」


 「無理です」


 「だよな。だけど俺達は衣食住を保証してやれる。このままサツに捕まってトンボ帰りなんて嫌だろ? 折角の機会だ。楽しもうぜ」


 紅月から伸ばされる手を僕は取らなかった。

 怪しいからだ。


 「俺達は衣食住が保証された場所に過ごしているがある程度の金を収めるルールがある。そして稼ぐ方法は⋯⋯」


 なんか語り出した。


 「受け子⋯⋯とか?」


 「犯罪じゃねぇよ偏見が酷いな! ハンターだよハンター。今時だろ?」


 過去に巨大隕石が地球の横を通った時に、地球の中心に特別なエネルギーの源が生まれた。それを『魔力』と呼んでいる。

 地球の中心から木の根っこのように魔力は広がった。

 魔力の流れに異常が発生し、魔力が一箇所に溜まった時に魔力を解放するが如く異次元へ繋がる扉⋯⋯ゲートが出現する。

 ゲートを通ると俗に言うダンジョンへと繋がる。


 迷路のような場所だったり、本当に別世界だったり⋯⋯様々な種類のダンジョンがある。

 ダンジョンの中には現代科学では証明不可能な特殊な現象を扱える秘宝の数々が眠っている。

 取り尽くせない財宝が眠るダンジョンは生まれ続ける。


 だが、ダンジョンは人に恵を与えるだけでは無く災害も呼ぶ。

 俗に言うモンスターが蔓延っているのだ。

 ダンジョンは放置すれば中のモンスターが飽和状態となり外に溢れ出る。

 それを阻止し、モンスターを倒し、宝を採取するのがハンター。


 ダンジョンはその中で1番強力な個体、ボスモンスターを倒せば魔力の流れは安定しダンジョンは消える。それもハンターの仕事だ。

 国の兵だけでは人手不足、金もかかるために一般人もハンターとしての仕事が出来るようになった。

 命懸けな仕事だが、数々の税金も課せられる仕事だ。

 だが膨大な税金が課せられても尚、大金を稼げる仕事でもある。


 「中学卒業と同時にハンター資格は取れる。俺達はハンターとして金を稼いで生活している。国を守り、金も稼げる、良い仕事だよな」


 明るく笑う紅月。

 僕も知識としては知っている。

 だから言える。


 「僕は無一文だ。ハンター資格を取るには最初に7500円が必要ですよ」


 「そんなの後から返してくれたら良い。最初は俺が払っとくからさ」


 「怪しすぎる!」


 「それでも良い。このまま家に帰るか、怪しい道へ進んで自由を謳歌するか。どうする?」


 「私もしずちゃんもこうやって助けられたんだよ!」


 戻ったらどうなるか分からない。

 僕は⋯⋯紅月の手を取った。


 僕達の住む市にあるギルドに向かい、そこで手続きを行う。

 前述したダンジョンが現れた理由やハンターの仕事、税金関連から初歩知識などなどの講義を終えた後、ギルドが管理している低難易度ダンジョンの中に移動する。


 「ダンジョンに入った瞬間に手に握られるステータスカードを見てください」


 係員の言葉に従い、ダンジョンに入った瞬間に本当に手にあったカードを見る。

 縦長の長方形⋯⋯ステータスカード。

 そこにはスキル、装備の欄が存在していた。


 スキル

 死霊術:固有ユニーク等級


 ユニーク⋯⋯って僕だけのスキルじゃないか。

 内容は⋯⋯あ、分からないんだっけ?

 自分で調べるしか無いのか。不親切だ。


 「次に皆さんには武器が配布されます。それをステータスカードに登録して外に出てください。自分が使いたい、得意、或いはスキルに因んで武器を申請してください」


 僕のスキルの名前的に魔法系だが⋯⋯分からない事が多い。

 前で戦う勇気も無いので、習った事のある弓道を生かしアーチャーでもやろう。

 僕は弓矢を貰った。


 弓矢にステータスカードを翳すと登録される。

 外に出れば武器は消え、ステータスカードに収納されるシステムだ。まだまだ解明されていない事が多い。

 分かっている事もあるが、今は良いだろう。


 ステータスカードはギルド管理なので、係員にカードを渡す。

 ユニークスキルなのだが、周りに気づかれないためか普通に作業をしてくれた。


 やる事が終わったので紅月のところへ行く。


 「サイズ聞いたから着替え買っておいたよ」


 白銀が服の入ったレジ袋を差し出してくる。

 ⋯⋯お金無いのに。


 「金は全部俺が出す。いつか返せば良いさ。いつもならこのまま銭湯だが、その前に案内したい場所がある。絶対に秘密の場所だ」


 紅月が案内してくれたのは森の中、そこにはゲートがあった。


 「ダンジョンっ! 勝手に入るの?」


 「ここはギルドが発見していない俺達の家だ。名前を『ハウス』と言う。他にも沢山のグループがありルールがある。俺達に与えられた部屋以外の場所に無闇に近づくなよ。危ないからな」


 「だ、ダンジョンに住んでるの? 危ないでしょ」


 「ここは弱いモンスターしか出ないから安全だよ。出現率も低いしな。来いよ」


 僕は恐る恐るダンジョンの中に入る。

 複数の分かれ道が最初にあり、左から2番目の道に入る。

 そしてすぐに木の板で塞がれた部屋に着く。


 「ここが俺らの部屋、132号部屋な。板は簡単にどかせるから」


 ダンジョンの中なのに、生活感溢れる空間がそこには広がっていた。

 僕の人生はここから⋯⋯180度変わるのだ。

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