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第2話
深夜2時。
未だに興奮冷めやらぬオーディエンスを残し、私はステージから降りていた。
「エトさんお疲れ様です。2FのVIP奥で中崎さんたちがお待ちです」
袖で待機していたスタッフさんから言伝を受け取り、挨拶へ向かう。
「中崎さん、お疲れ様です」
「お、エトちゃ〜ん、待ってたよ。お疲れ〜」
ここ座りなね、と、空いているお誕生日席のソファへ招かれた。
「お疲れエトちゃん!」
「アッキーくんお疲れ様です」
「エトちゃん今日もナイスDJ」
「そして安定の可愛さ!」
「ふふ、ありがとうございます、サトシさん、リクさん」
テーブルを囲む十人ほどの先輩達から次々と声をかけられ、緩く対応に追われる。慣れた状況だ。特に今日は比較的少数の顔見知り、年齢も私より一回りほど上のお兄様方ばかりなので然程気を張らずに済んでいる。
「主役も来たし、とりあえず乾杯しようか。エトちゃんも、はい」
「ありがとうございます」
イベントプロモーターの中崎さんがそう言ってシャンパングラスを渡してくる。皆もその声を合図にグラスを掲げ、それを確認した中崎さんが音頭を
取った。
「じゃあ皆今日はありがとう。エトちゃんもお疲れ様。ということで、乾杯!」
「「乾杯〜」」
グラスがぶつかる音が小気味良く響く。下のフロアで鳴る重低音と歓声が響く中、各々が談笑を再開させ、自ずと私へも話題が飛んでくる。
「で、エトちゃんはどうなん?最近の恋愛事情!」
嫌ではない。嫌ではないのだけれど、こういう会話は苦手だ。
「ふふ、そこはご想像にお任せします」
「うわ、その反応はまた遊んでんだな?」
「さすが〜!」
見た目とパフォーマンスのイメージから、いつの間にか出来上がってしまった私の
不快を顔に出さず、静かに笑い、綿密に作り込んだハリボテの色気を纏わせ繰り出せば、誰も詮索などしてこない。強い興味など端から無いのだろう。
ステージの外でも、仕事のため、私は常にそんな「私」のフリをし続けている。
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