第1話

鳴り響く重低音、光を散らすミラーボール、妖しく漂うスモークに踊り狂う人々の波。


そして、ステージの上で音を操りフロアをメイクするその人・・・



『エトちゃんまじ可愛いわ』


『それな!選曲今日も最高。しかもスタイル完璧じゃん?』



人形のように配置の整った顔のパーツは完璧な比率で調和していて、さらに口元は常に緩い弧を美しく描いている。



「(衣装寒いな……布少ないし、早く着替えたいよもう早く着替えて猫のお腹吸いたいし)」



それに加えて豊満なバスト、くびれたウエスト、桃のように美しく弧を描くヒップラインにしなやかに伸びる細い手足。



『間違いない。あ〜、エトちゃんとエロいことしてえ』


『わかるわー!ワンチャンねえかな』



美しく繋ぐ曲の数々に合わせて踊りながら観客を魅了する彼女に、その場にいる多くの人間の意識が向いてる。


女も男も皆、彼女の音楽と美貌の虜にされ、視覚から、聴覚から、まるでトランス状態に陥っているかのように踊り、叫び、狂う者までいる始末。



「(ていうかお腹すいた……はあ、食べたらお腹出ちゃうからって我慢しすぎたかも、ってお腹なっちゃったよ、ああ嫌だなあの人とか絶対私のことエロそうとか言ってそうだしな)」


 

『はは!イケメンだからって調子乗んな?有名人だぞ、お前じゃ無理だろ』



eteエト。この界隈で彼女の名前を知らない者はいない、正真正銘のトップフィメールDJ。



『やっぱそうだよなあ、セレブな男と毎日セレブなパーティーとかしまくってんだろうな』



正真正銘の。



「(あと10分か。早く帰って糠床からきゅうり出さなきゃだしな、そういえばベランダのトマトもそろそろ収穫しなきゃヤバそうだった……あ、名探偵ヨナンの続きも観なきゃだ)」



……多分。

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