第32話
「ウタちゃんいつもありがとね、藍佑のこと」
ニコリと微笑みかけられてわたしは曖昧に笑った。
ありがとう、と言われるほど何かしてあげられているのか分からない。だってわたしは本当に、何もしていないんだもん。
「もう一年か、世間知らずだったのにウタちゃんのお陰で随分マトモになったよ」
遠くを見つめるように、わたしの奥の方を見つめるお兄様は何を思っているんだろう。
わたしはそれを知ることが出来ないから、やっぱりまた曖昧に笑った。
「ただ、毎日一緒に帰ってるだけですよ」
毎日手を繋いで、たまに寄り道して。A4のノートはわたしとの会話で埋まっていく。
A4のノートがアイの全てだった、その真っ白なページが文字で埋まっていくのを見ると、わたしはそれを征服している気分になる。次のページを捲る音がした時、わたしはどうしようもなくどうしようもない気持ちになるんだ。
人の気持ちに敏感なアイだけど、きっとわたしのこの思いは知らない、気付かない、気付けない。
「ウタちゃんは簡単なことだと思っているかもしれないけど、そうじゃないよ。藍佑が喋れなくても他の人と変わらない扱いをしてくれる、それって難しいことだと思う」
「そう、ですかね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます