第31話

「……あ」


「あ、ウタちゃんこんにちは」


「お兄さん、こんにちは」




日曜日、とくにやることも無く適当に駅の近くを歩いていた時だった。


暑いなぁ、まだ6月なのに、けっこう暑い。そんなことを考えながら、ふと目の前から歩いてきた人に目を向けるとアイのお兄様。




「久しぶりだね、ウタちゃん一人?」




爽やかな笑顔はさすがだ、暑さなんて一瞬で忘れてしまうくらいに爽やかで癒される。




「はい、ひとりです。暇だったので適当に歩いてました」


「そうなんだ、暇ならちょっと付き合ってくれる? お茶でもしようよ」


「はい」




ふたつ、年上のアイのお兄さん。


藍佑とわたしは高校二年生だからお兄さんは大学一年生のはず。確か最後に会ったのはまだお兄さんが高校を卒業する前だった。


前に見たときは髪の毛が黒かったのに、今は大学生らしく茶色に染められている。だけどよくいる大学デビューしたばかりの汚い髪色じゃなくて綺麗な茶色。


日に当たった髪の毛が輝いている。


さすが、花園グループの息子。なんて言ったらアイのように困った顔で笑うのかな。




「暑いね」


「そうですね、でも、これからもっと暑くなりますよ」


「そうなったら俺、たぶん溶けちゃう」




目じりに皺を寄せてくしゃっと笑う顔は、あんまり藍佑には似ていないような気がする。だけどやっぱり似ている二人。


アイの方が可愛らしい顔をしていて幼いけど、お兄さんは長男らしく凛々しい顔つきだ。


二人で適当なカフェに入って飲み物を注文した、よく分からないうちにわたしの分まで一緒にお会計をしてお金まで出してくれた。スマートだ、紳士だ。


藍佑とコンビニのレジでのやり取りを思い出して少しだけ悲しくなる。


アイはきっと、ううん、絶対にこんなこと出来ない。

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