第26話

もったいつけるようにゆっくりとA4のノートをこちらに向ける。




「っ」




息を飲んだこと、気付かれないかな。綺麗な字が飛び込んできた。




“明日から迎えはいらないって言っておく”




もったいつけるように、一文字ずつ綺麗な字を目で追う。もったいつけて読んだクセに、何秒ともかからずに読み終わって残念な気持ちになった。




「生意気、毎日わたしと一緒に帰るってこと?」


“そうだよ”




わたしよりも背の高いアイが口を開いて、音もなく笑った。だけど不思議だ、わたしにはちゃんと笑い声が聞こえる。


頭の上から降ってくるこの声はアイの声だ。聞いたことも無いアイの声が笑ってる。


もしかしてわたしって頭可笑しいのかも。それか藍佑が超能力使えるのかも、聞こえないのに聞こえるようにするやつ。よく分からないけど、たぶんそうだ。


だってわたしは簡単な言葉なら文字が無くてもアイの言いたいことが分かるの。いつからだっけ、藍佑の言葉を理解出来るようになったのは。


クラスメイトのみんなは簡単な言葉さえも、A4のノートを通さなければ分からないのに、どうしてわたしだけ。




「わたしの放課後を独り占めするなんて、高くつくよ」




本当は嬉しいってアイのことを抱き締めたかった。だけど照れ隠しでそんな言葉が口から紡がれる。また何かサッと書いた、それをわたしに見せる。




“俺、お金持ちだから”


「馬鹿じゃないの」


“ウタの放課後だけじゃなくて人生だって買えるよ”


「アンタのお金じゃないでしょ」


“将来のお医者様だから今は無理でも10年後には”


「そんなにわたしを待たせるつもり?」




そう吐き捨てたわたしの気持ちなんて、藍佑には一生分からない。

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