第21話

意地悪く言えばアイが急に立ち止まった。同じように立ち止まったわたしを見下ろす。ウタ、って呼ばれたような気がした。



えっ?


って思わず聞き返しそうになって、ぎゅっと口を結ぶ。


聞こえた気がしただけで藍佑は口を閉じていてわたしの耳に入ってくるのは町の喧騒だけ。


泣きたい、目の前で泣いて困らせてやりたい。好きなの、守ってあげたくなる。だけどいじめてやりたい。ぐちゃぐちゃに可愛がってやりたいの、大嫌い。


眩しい、遠くに太陽が見えて目を細める。それを何か他の意味と勘違いしたアイが同じように少しだけ目を細めた。


すう、と息を吸い込んだのが目に入る。ハートが痺れて死んじゃいそう。




“本当、がいい”




今度はちゃんと、そう言った。口をぱくぱくさせて切なげにわたしを見つめる。


その言葉を紡ぐのにどれだけ勇気を出したんだろう。そう思ったら愛しくて泣きそう。


音の無い言葉、息が漏れるだけ、わたしの都合のいい解釈かもしれない、それでもいい。

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