第10話
チョコレートを食べ終わってゴミを鞄にしまうと、すかさずアイがわたしの手を握る。
視線を向けると感情を隠す気は無いらしくにこにこと笑っているアイが見えた。
もうすぐ夏だ。藍佑と出会って、二度目の夏が来る。君はいつ、声を聞かせてくれるの。
「わたしの家、今日の夜ご飯はカレーなんだって。お母さんが言ってた」
きゅっと手に力が入る感覚。アイが返事の代わりに握った手に力を入れた。たったそれだけのことで、わたしはいつも心が潰れそうになるんだ。
自分で思っている以上にわたしの心は繊細なのかもしれない。
「あのね、ルーを溶かす前にマンゴーチャツネ入れるの。チャツネって知らないでしょ」
頭の良いアイでも知らないでしょって、ちょっと自慢げにアイを見つめれば、うん、と頷くのが見えた。
「わたしもよく知らないけど、マンゴーを砂糖とスパイスで煮たジャムみたいなやつ。美味しくなっているのかは知らないけど、必ずそれを入れて作るんだよ」
そう言えば、アイが握っていた手を離して反対の手に持っていたノートを開く。スラックスのポケットからペンを取り出して何かを書いた。
わたしは綺麗な字が書かれていくノートを見つめた。アイの言葉を待つこの時間は嫌いじゃない。
“お母さんに勧めてみる”
「美味しくなるのかは分からないけどね」
不安になって念を押せば、クスクスと声には出さずアイが笑った。
どうやら今日も、わたしはきちんとやれているみたいだ。
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