第7話

あのね、アイ。


アイが喋れたら、もうちょっと格好つけられたのに。たった数十円のために、格好つけたセリフを言えるのに。


喋ることができない藍佑は、ちょっと格好悪い。それはたぶん、自分の気持ちを全て表情に出してしまうからだ。言葉で自分の気持ちを伝えることの出来ないアイは、表情で伝えようとする。アイの喜ぶ顔は可愛いけど、困ったときは眉を下げて情けない顔をして、まるで“助けて”と本当に聞こえてくるような表情をするから、まわりの男の子たちよりも頼りなく見える。




「今日も暑いね、春なんてもうどこか行っちゃったみたい」




コンビニを出て、買ったばかりのチョコレートを二人で食べながら歩く。コンビニを出てから食べ終わるまでは、わたしたちが手を繋ぐことは無い。


そんな距離が少しだけ寂しいと感じるのはきっと、手を繋ぐことに慣れてしまったからだ。




「今日は病院に行かなくていいの?」




視線を横に向ければアイは、うん、と首を動かした。




「最近あんまり行ってないみたいだけど、大丈夫?」




わたしがそう聞けば、藍佑は曖昧に笑う。ずるいよね、そういうところ。


都合の悪いときはちょっと困った顔をして笑えば、何でも許されると思ってるの。


喋れないということを都合よく使って、でも本人はそんな自覚無いからもっとずるい。ずるいって思うのに藍佑のことを簡単に許しちゃう自分に情けなくなる。




「じゃあ今日も家までだね」




そんなつもり無かったのに、随分とふてくされた声が出た。そんなわたしに気付いた癖にアイは何も言わない。その代わりに、あついね、ってにこにこ笑って、口をぱくぱく動かすだけ。


そういうところが嫌いなの、って藍佑に言えたらわたしはこんなに苦労しない。

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