第五話 絶望の終着点

 三年後の年始。十三日、全国高校サッカー選手権大会の決勝戦が始まっていた。

 「鉾田!鉾田!鉾田!鉾田!」

 大会も大詰め、優がDFを一人抜き去り、残りのDFが二人になった。

 大会には沙希も応援に来ていた。

 俺は今や、スウェーデン一番のリーグから招集が来ているほどの大物になっていた。

 俺はディフェンス二人が前にいる状態でシュートモーションに入った。

 俺は様々な人からの期待があって、ここまで頑張ってきた。そしてこの試合でもかなり調子がよく、テンションも再骨頂だった。

「俺が、世界一だ!」

 そう頭の中で叫び、シュートを打とうとした、その時。

 さっきまで左にいたDFがいきなり俺のシュートコースに入ってきた、まるで読めていたかのように。

 ボールはそのDFの足にあたり、右へはじかれた。

「なっ!」

 困惑していると、長らく聞いていなかった声で。

「殺しに来たぞ!優うぅ!!」

 そう聞こえた、そのDFは平一だった。

「平一!?お前?!」

 そのボールに平一は一直線に走っていった。だが距離的には、優のほうが近く、優はトラップで完全に吸収して左へ振り、平一を交わした。

 だが平一は中学の時より遥かに速く、すぐシュートコースに入ってきた。

「クソッ!」

 俺は、エラシコで右に振った。平一はつられて止まり、右に行こうとしたが、俺はもう一度左に振った。だがすぐに平一は戻ってきた、上半身だけを動かして俺にフェイントをかけたのだった、だが俺は無意識に反応して、また左に振った。

 俺はそのまま走り、平一を抜いた。


 優は俺を抜き去った。

 俺は決められると恐怖した。

『止める止める止める潰す潰す潰す!!」

 俺は復讐に染まった感情でそう思い、ファウル覚悟で止めに入った。


 俺はシュートモーションに入ろうとした、だが、あの時の感覚を思い出した。

 平一にパスを出したときの感覚を、その時の罪悪感を……これを決めたら平一はどうなる?

 そう考えると、俺は無意識にも減速した。


「は?」

 優は減速した、なぜかシュート撃たなかった。俺はもう走り出しており、急には止まれなかった。

 俺は優に派手に激突した。

「ボキッ」

 嫌な音が聞こえた。

「ピー!」

 笛が聞こえた、俺は審判にイエローカードをもらった。

 それならまだよかった。優の足は折れていた。

「審判!優が、優先輩の足が!」

 俺がそういうと、審判は優の足を確認すると、振り返って合図をお送った。すぐに担架を持った医療班が駆けつけて、優は運ばれた行った。

 試合は一時中断となった。

 しばらくすると優の代わりが入って試合が始まるかと思ったが。

「でてけ!でてけ!でてけ!」

 俺への出てけコールが始まった、俺は我慢しようと思ったが、相手と味方からの圧力を感じて限界だった。

 俺はベンチに戻り、ユニフォームを脱いで更衣室に戻った。

 もちろん俺の勝手だった。

 俺は誰にも言わずに隠れるように家に帰った。


 数日後の休日、俺はラーメン屋を手伝っていた、お弟子さんの教育により俺の腕は上がっていた、だがまお弟子さんやおじいちゃんと比べれば、まだまだだった。

 俺はあの一件から、サッカーはしていなかった、高校の部活には参加していたが、辞めようか考えているところだった。

 その時、店の前に数台の車が止まり、ぞろぞろと人が出てきてドアを激しくノックし始めた。

 まだ開店には一時間ある、何事かと思い、俺とお弟子さんはドアのカギを恐る恐る開けると。

「ここに糸杉選手はいらっしゃいますか?出来たらあの時のプレイについて!」

「あの時会場から逃げ出したのはなぜですか!」

「中学の時鉾田選手と同じチームだったんですよね?!どのような関係だったんですか?!」

 そこには様々なテレビ局が押し寄せてきていた。

 日本の宝である鉾田選手に怪我を負わせたんだ、だからと言ってここまで来るとは思わなかった。

「なんでここが?」

 それより俺は、ここに俺がいることがなぜわかったのかが疑問だった。今の高校には無断でバイトをしてるし、誰にもこの話をしていなかった。

 心当たりはあった。俺は帽子と前掛けを取り外して、裏口から家へと走り出した。


「父さん!」

 俺は家に着くなり、リビングでテレビを見ていた父さんを呼んだ。

「なんだよ、平一?」

「テレビ局にあの店のこと言ったのは父さんか?!答えろ!」

 俺はそう怒鳴りつけた、父さんは立ち上がり、俺の前に来た。

「そうだよ、ずっと粘ってたらそのうちの一人が賄賂を渡してきてな、さらに粘ったら金がどんどん膨れあがるもんで、ざっと百万で教えてやったよ、だからこんなに」

 父さんがそう言ってお金を俺に見せつけてきたので、俺はその金を叩き落とした。

「お前!なんてことをするんだ!」

 そう言って父さんは俺の首を掴んできた。

「あんたの自己中にはもううんざりだ!!もうあの店にかかわるんじゃねえ!」

 俺は父さんを蹴り飛ばした、すると父さんは。

「じゃあ、お前にくれてやるよ!そんなボロイ店!その代わり高校もやめてもらう!これ以上俺の金をつかうんじゃねえ!」

「わかったぁ!上等だ!」

 

 そうして俺は高校を中退した、だがラーメン屋には就職せず、クラブチームにでも入ろうとしたが、どこのクラブも。

「糸杉君?ごめんけど諦めてくてくれる?」

「君のことは知ってるよ!あの問題児だろ!ごめんけど無理だね」

「君の技術は素晴らしいが、君みたいな人がチームにいると困るんだよねぇ」

 俺のことはニュースになっており、誰も採用はしてくれなかった。

 

 そんなある日。

「平一……」

 お弟子さんがラーメンを一杯作ってくれた。

「食え、うちで働け……いや、俺と働いてくれ」

 お弟子さんは俺を認めてくれた。

 俺はサッカーから逃げるように、ラーメン屋に就職した。

「いただきます」

 俺はそう言って、ラーメンをいただいた、昔よりうまくなっている。

 はずだ、俺は精神的に疲れていてラーメンの味も、匂いもわからなかった。


 二年後、俺は変わらずラーメン屋を続けていた、だが毎月入ってくるテレビ局、おじいちゃんが現役だったの頃からいる独り身の男や、わざわざ店に来る父さんのクレームの影響により、バイトは全員辞めてしまった。

 客足はどんどん減っていき、俺の借金も増えてきた。あ弟子さんが社員となり、その給料を払わなきゃいけなくなったことと、父さんが毎月要求してくる仕送りのせいだった。

 そんな生活が一年続いたころ、店の掃除も終わり、もう帰る頃、お弟子さんが。

「すまない」

 そう言ってそそくさと帰っていった。

 次の日、お弟子さんは店には来なかった。

 心配になり、お弟子さんの両親に連絡を取ると。

「え、帰ってきてませんが?」

 あ弟子さんは家には帰っていなかった。

 その時、店の壁のテレビで事件のニュースが流れた。

「今日午前五時ごろ、〇〇公園の草むらに、遺体が発見されました。その遺体は〇〇市に住む〇〇さんで、あの糸杉選手のいるラーメン屋の社員でした。」

 そう、ニュースキャスターは言っていた。電話の向こうからは、お弟子さんの両親の泣き声が聞こえた。俺はとっさに。

「ごめんなさい……ごめんなさい」

 そう、謝罪をした。

 

 半年後、お弟子さんの両親から慰謝料の請求があった。俺は迷うことなく了承し、さらに借金を重ねた。

 借金の相談を、ダメもとで父さんに相談してみると。

「ふざけてるのか?!これ以上金を使わせる気か?!もうお前とは絶縁だ!」

 両親とは縁を切った。もう関わらなくていいと清々したが、問題は先送りされていくばかりだった。


 ある日の夜中、俺もお弟子さんが亡くなった公園に来た。一本の太いロープを持って。

 俺は、一番大きい木の幹にひもを括り付け、自分の首の高さより高いところに輪を作った。

 俺は持ってきた台に乗りその輪に首を通した、そして台を蹴飛ばした。

 走馬灯を見た、そして、おじいちゃんの言葉を思い出した。

『おじいちゃんはね、託したんじゃない、諦めてほしくないんだ。頑張り続ける平一をおじいちゃんは応援し続けるよ』

 俺はロープを掴み全力でもがいた、すると幹が折れて俺は倒れるように落ちた。

「すー……はぁー、…………おじいちゃん」

 俺は重い足を引きずって店まで戻った。

 

 次の日の朝、俺は目を覚ました。

 無意識に首を触った、次に心臓に手を当てた。

「………………なんで……生きてんだよ」

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