第三話 嫌悪感・劣等感・敗北

少し、俺の家族について話そう。

 俺の家族は三人家族で。父さんは中小企業のセールスマンだ。責任感が強く、自己中心的で、気が短くて嘘ばっかついてる人で、良く他人の自慢をする人だった。俺はそんな父さんが好きになれず、いい反面教師だった。だから俺はあんなふうにならなくて済んだのかもしれない。

 母さんは、近くのスーパーでパートをしている主婦だ、といっても週に二日しかスーパーに出勤していなかった。父さんとは真逆で、人任せにすることが多く、人に興味がないが優しい、だがかなり無口で無気力だった。おじいちゃんの話によると、デキ婚だそうだ。同級生で、中学の同窓会の日に初めて互いを認識したそうだ。そしてその日のお酒の勢いでできてしまったのが……俺だ。


 おじいちゃんのお葬式が始まる直前、父さんが俺を連れて一度外に出た。

「何?父さん」

「実はな、お前に黙ってたことがあって」

 俺はおじいちゃんがいなくなったこと以上に悪いにニュースはないと思っていたが。

「実は、うちの家計は毎月おじいちゃんに仕送りしてもらって成り立っててな、これを期に、お前のお小遣いはなくさせてもらう」

「そんな」

「それと、お前にも少しは稼いでもらう、おじいちゃんのラーメン屋を手伝うんだ」

 俺は自分の家の状況は理解していたため、ある程度は受け入れる覚悟はできていた、だが。

「そうなると、サッカーや進学はどうなるの?」

「奨学金とかあるだろ、サッカー部はちゃんと言ってもいいぞ、お前がサッカー選手になって、お金持ちにでもなってくれ」

 その一言で父さんが俺に対してそんな程度にしか考えていないと、改めて感じた。そこに母さんも来て。

「ごめんね平一、平一には迷惑かけるけど、サッカーは頑張っていいんだよ、私たちを助けておくれ」

 そう言った、母さんは俺を励ましたくれたが、この人たちはいつまでも他人だよりなところを再確認した。

 俺たち家族は葬儀場に戻り並んで座った。

 その時、後ろから声が聞こえた。

「ねぇ、誰も何も聞いてないの?相続について?」

 ラーメン屋の常連のおばちゃんだった。

「やめなよ、こんな時にそんな話しないの」

「やだ、ごめんなさい」

 俺は確かに気になったが、子供の俺には関係ないことだと思った、実際仕組みもよくわかってないし。

 だが父さんは、その話に聞き耳を立てていた。

 

 おじいちゃんのお葬式が終わり、全員が家に帰った後。平一はいつもの走り込みへ向かった、おじいちゃんが亡くなったショックを和らげる目的もあったのだろう。

 父親はおじいちゃんの家に行き、荷物の整理をしていた。

「確か親父の誕生日は……」

 父親はおじいちゃんの寝室の、ベットの下の金庫のパスワードを入れていた。父親は親族の誕生日をひとつづつ入れていった。

「カチッ」

「あ、開いた」

 金庫が開いた、パスワードは平一の誕生日だった。

「……クソガキ」

 父親はなぜか腹を立てた。金庫の中には、昔に亡くなっていたおばあちゃんとの結婚指輪、家族写真、そして平一一人が写った写真があった。

 父親はその平一の写真を握りつぶした。

「マジであのクソガキが……チッ」

 父親は舌打ちをした後、金庫の中に同じようなつくりの小さい金庫を見つけた。父親はまず自分の誕生日を入力しようとしたが。

「は?」

 小さいほうは二桁だった。

「ほんとにあのくそ親父は!」

 父親はずっとおじいちゃんの遺書を探していたのだった。


 平一はしばらく走って、近くの公園まで来た。ベンチに腰掛けて、ポケットからおじいちゃんが残したラーメンのレシピを見ていた。

「おじいちゃん……」

 平一はそのメモを眺めていると一つのことに気づいた。ラーメンの出汁とかえしの割合だけ妙に大きく書いてあったのだ、違和感があるほどに。

 平一は気にするようすもなく、家に走り出した。


 父親はおじいちゃんの金庫を持って庭に出ていた。

「これならいけるか、はぁ」

 金庫を無理やり開けようとして岩にぶつけたり、倉庫のハンマーでたたいたりしていた。

「バキン!」

 金庫はついに開き、中からは一枚の封筒と、札束が一つ入っていた。

 父親は慌てて封筒を開き中身の紙を読み始めた。

「遺書……遺言者、〇〇〇(平成二十九年八月八日)……こんなに前から書いてたのか」

 安心した父親は、金庫を壊すの使った岩に腰掛けた。

『私は前記第一条及び第二条に記載した財産以外の一切の財産を糸杉平一に相続させる』

「は?」

 遺書には相続人は平一になることが記されていた。

「……ふざけるなよ!あのクソガキ!」

 父親は取り乱した。

「俺は息子だぞ!?なんであんなガキに!」

 そいって岩にこぶしを振り下ろした。

「俺は愛されてなかったのかぁ!」

 そう叫んで、遺書を破り、ゴミ箱へ捨てた。


 夏休み、俺を含めたサッカー部が全国中学校サッカー大会真っ最中だった。今は一回戦に勝利した夜だった。結果は六対一で圧勝だった。

「じゃあ今から明日のミーティングするぞ」

 宿泊先のホテルの会場にサッカー部員が全員集まっていた。

「わかってると思うが、明日は去年優勝の星波中学校だ、シードで一回戦免除で上がってきたから、まだ本調子じゃないはずだ」

 次の相手はこの大会一番の強敵といってもいいほどだった。

「知ってると思うが、前の大会でも俺たちは星波中に負けている、だが完敗じゃなかった、今まで練習してきた作戦通り全力で勝ちに行くぞ!」

「おおおおおぉぉぉぉ!」

 サッカー部の全員が気合いを入れなおした。

 それから少し話してからミーティングは終わり、各々が部屋へ戻った。

 道中で。

「もしもし沙希?今ミーティング終わったとこ……うん、絶対勝つ」

 優先輩が電話しているのを見つけた、電話相手は沙希だった。

「うん……わかってる、だから待ってて」

 俺は和樹を先に部屋に返し、角に隠れて盗み聞きをしていた。

「うん、じゃあ明日」

 そう言って電話は終わった。優先輩は振り向いて自分の部屋に向かおうとしたが、俺が角から出て止めた。

「……平一、聞いてたのか?」

 俺は周りに誰もいないことを確認して、優先輩に。

「はい、沙希に俺のこと言ってないんですか?」

「あぁ、そのことについてだがな。なぁ平一、ちょっと話そう」

 そう言って優先輩は、俺をホテルのエントランスのソファまで案内した。

「何の用です?優先輩」

 優先輩は先に腰掛けて言った。

「その、実は明日の試合に沙希が見に来るんだ」

 俺もソファに座り話を聞いた。

「そしてもう一つ、平一のことを沙希に話したんだ、もちろん怒られたよ」

「まぁ……でしょうね」

 俺は少し他人事のように返事をしてしまった。

「そのことでな、正直に言うと、沙希のことを諦めきれないんだ」

 そう言われた。実際俺も、沙希が優先輩のことを好きだと知ったあの時、諦めようとしたが、そう決断できなかった。

 そこで俺は、ある考えが浮かんだ。

「その気持ちには同情します、なら勝負しましょう」

「勝負?」

 優先輩は俺の顔を見た。

「明日の試合、得点数が少ないほうが諦めましょう」

 優先輩は少し顔を顰めて何か言おうとしたが。

「先輩は優しすぎるんですよ。争いはしたくない、諦めたくもない、俺を傷づけたくない、そんなんじゃらちが明かない。明日の試合は、俺とあんたの男の勝負です」

 優先輩は立ち上がり俺に近づいて。

「お前正気か?それでいいのか?」

 俺は優先輩の目を見て。

「俺が優先輩にかなわないと思ってるんですか?俺もそんな生半可な気持ちで沙希を任されても納得できません」

「お前……」

「明日の試合は絶対に手は抜けない強敵です、なら、俺たちの今後も、この試合に賭けましょう」

 優先輩は目を見開いて驚いていた、優先輩は首を横に振り。

「お前の覚悟はよくわかった!俺も絶対負けない!お前も手抜くんじゃねえぞ」

「もちろんです!先輩!」

 そう言って俺と優先輩はグータッチをした。


「なぁ、山ちゃん」

「何よ」

 ホテルの一室で立石と山口が話していた、二人はもうシャワーを済ませて寝巻に着替えていた。

「俺さ、最後の試合出れるかな?」

 立石がそんなことをいった、山口があきれたように。

「出れるわけないだろ、俺たちは人数の都合で補欠になれただけだ」

「だけどさ、思い出作りで出させてもらえることあるよね」

「そんなのないよ、うちの部は」

「希望ぐらい話あってもいいよね?」

「お前しつこいぞ」

 山口がそういうと、立石が立ち上がり、ジャージに着替え始めた。

「お前どこ行く気だ」

 立石は少し暗い雰囲気をしていた。

「顧問に最後の試合出れるか聞いてみる」

「は?」

 山口はさすがに自分勝手すぎると思い、立ち上がり肩をつかんだ。

「いやいやいや、さすがにそんなわがまま通るわけないだろ」

「顧問良い性格してるからいけるって」

「それの何が根拠なんだよ!」

 山口は今まで、立石の我儘を抑え続けてきたがとうとう限界が来た。

「お前いい加減にしろ!嫉妬すんのはわかるがこれ以上迷惑かけんな!」

「別に迷惑じゃないだろ!顧問にお願いするだけなんだから行けるって!」

 立石は空気を読むのが下手で、山口が起こっていることに気づいていなかった。

「離せよ!いうだけだから問題ないって!」

 そう言われて山口はすんなり手を放し、最後に。

「わかったよ、無理だったからってキレんなよ」

「そんなんじゃキレねえよ」

 そう言って立石は顧問の部屋へ向かった。

 立石は顧問の部屋につくなりノックをするが顧問が出てくることはなく、一回のエントランスまで探しに行くことにした。

 エレベーターを降りると、すぐ近くの喫煙所から顧問が出てきた。

「すいません、少し話が」

「何の用だ、立石」

「あまり考えたくない話ですけどぉ、明日負けちゃうかもしれないじゃないですか?」

 立石がそう言うと、顧問が。

「まぁ、そうだなだがそんなつもりはない、みんなこの大会のために頑張ってきたんだ、必ず勝てる」

 立石はため息をつき、顧問に。

「その、もし負けた時のために……思い出作りぐらいで出させてくれませんかね?」

 顧問はあきれたような顔をして、立石を連れて外に出た、外はもう暗く近くには誰もいなかった。

「あのなぁ、立石、お前我儘すぎるんだよ。お前が補欠なのはお前が無駄に文句を言ってくるからだ、補欠にいるだけでお前を使うつもりはない」

 立石はすぐに切れそうになるが、顧問がすぐに。

「お前が今まで頑張ってっきた奴らの努力まで信用できないのなら、お前はベンチにすらいらない、明日からお前は応援に回れ」

 そう言って顧問はホテルに戻った、立石は感情を出して叫んだ後にホテルに戻った。

 ホテルに入ると、エントランスの角で、平一と優が話しているのが見えた。

「……面白くねえ」

 そう言って、自分の部屋に戻った。


 後日、昼の一時頃、試合が終わるまでに二分を切っていた、現在の得点は二対二、俺と優先輩が決めたゴールだった。

「行け!行け!行け!勝てるぞぉ!」

 顧問がそう叫んでいた、今は優先輩のマイボール、DFは三枚。

「平一ぃ!」

「はい!」

 優先輩はDFにあたる前に俺にパスを出した。俺はトラップせずに前に弾き、そのまま全速力で走った。

「はぁ、はぁ、はあぁ」

 今日の俺は、おそらく最多スプリントだろう、そのせいかかなり疲れていた。

 PE(ペナルティエリア、キーパーがボールを手で触っていいエリアのこと)手前でDFにあたった、左にフェイントをかけ右に走るが、すぐにもう一人のDFがぶつかってきて、二人とも倒れた。

「おい!今のファウルだろ!」

 後ろの吉原先輩はそう叫んだが、笛はなっていなかった。俺はすぐに立ち上がりボールへ走った、DFの二人もすぐに追いかけたが俺が最初にボールに追いつきそうだ。

「クソが!」

 だがここで止めても、俺のシュート精度じゃ、左奥にまで入りすぎたこの位置じゃゴールが狙えなかった、が、優先輩がDFを一人連れて、ゴール手前まで来ていた。

「平一ぃぃ!」

 そう先輩が叫んだ、俺はパスが最善だと思ったが、様々な気持ちが入り混じっていた。

 ここでパスを出せば沙希とはもう付き合えない、だがパスを出せばチームは勝つ、だが相手は星波中、この強豪に相手に二点も取れば推薦が来るかもしれない。

 そこで、吉原先輩の言葉を思い出した。

『俺は今のチームで少しでも一緒にサッカーしたい。だから俺はお前を推薦したんだ……、期待してるぞ』

 俺は確実なチームの勝利に賭けた、俺はさらに加速し、ボールの少し奥まで行き、ボールは止めずに優先輩にダイレクトパスをした。


 俺は平一の名前を叫んだ、疲れてあんまり声も出ない。

 俺は平一にシュートを託した、そして沙希も、俺はどこか安心した。

 だがボールは俺のほうに飛んできた。

「は?」

 平一は俺にシュートを託した。

「行けやぁ!優ぅー!」

 俺は、怖くなった。

 ここでシュートを決めればチームは勝つ、だが俺は昨日のあの賭けに負けるつもりだった、だが目の前には二つの勝利がある、撃てば俺はチームの勝利と沙希を手に入れられる。

 だが平一はどうする?そう考えると、平一との会話を思い出した。

『沙希は任せるぞ』

『はい、日本サッカーは任せました』

 ここで勝っても、俺には次がある。平一には来年がある、なら俺は沙希を任せる!

「平一!止まるなぁ!」

 俺は平一が早さなら届く位置にダイレクトで返した。


 優先輩は俺にパスを出した、俺はワンテンポ遅れて反応して走った、間に合わないと思い飛び出してヘッドでゴールに押し込むが。

 ボールはキーパーに止められた。キーパーはそのままロングパスをした。

 俺は優先輩……優を見た。

 絶望したような顔で俺を見てきた。

「すまない……平一……すまない」

 そのまま点を決められて、二対三で負けた。

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