エピローグ

side藤

第30話

夜中に電話が鳴った。

それも携帯じゃない、家電だ。


一人びくついて目を覚まし、次の瞬間、親しい誰かに何かあったのだろうかと考える。



「はい、もしも…」

「こぉんばぁんは~」

「…おやすみなさい」

「ちょっと!ちょっと待ってよ、藤原くん!」



ガチャ切りしようとした俺を、オカマの声が全力で引きとめた。

しょうがないので囁き声で返す。



「何ですか、こんな時間に。奏子が起きたらどーしてくれんの?」

「分かってるわよ、ごめんね。由文くんは寝てる?」

「とっくに夢の中ですって。ついでに言うなら俺も寝てたし」

「あーごめん。でね、真面目な話なんだけど」

「……」

「一曲でいいの。由文くんのベースがほしい曲があるのよ」

「…いっきょく?」

「そう。そんな警戒しないで。純粋に弾いてほしいだけだから」

「………」


「今日の昼間、由文くんにもメールしたのよ。かなり迷ってるみたいだったわ」

「う~ん…」

「アタシの中では、会心の出来の一曲よ。だからこそ頼みたいの」

「…チャマがいいって言うなら」

「よし!明日、ライブの打ち合わせがあるんでしょ?ちょっとお邪魔するわよ!」

「え゛」

「じゃね!よろしく~」



一方的に切られた電話をぼーぜんと見つめながら、早まっただろうかと考える。

ベッドに戻ると、チャマと奏子が並んで眠っていた。


…平和そうで何よりです。

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