第29話

その日の仕事が終わる頃、奏子ちゃんがやって来た。

この間まで保護者がわりを務めてくれていた、ガタイのいいおっさんに連れられて。

保育園のように彼を使うのはどうかとは思うが、まぁ行きがかり上それも仕方ないのかもしれない。



―――どぉもぉ皆さん、ごきげんよう~


『おー、カナ』

「出たな妖怪」



藤原の第一声もどうかと思うが、その後奏子ちゃんが駆け寄った相手は更にアレだった。



―――ひろ!


「はぁい、奏ちゃん」


―――ひろー、ひろー



何がどう転んだのか知らないが、奏子ちゃんは目下ヒロが一番のお気に入りらしい。

この間ヒロがこっそり教えてくれたところでは、「けっこんしようね」とかいう聞き捨てならない…じゃなかった、可愛らしい約束まで取り付けているとか。



―――あら藤原くん、すごいクマねぇ。寝不足?


「え?」


―――目の下よ。徹夜でもしたの?あ、もしかして奏ちゃんが夜泣き?


『いや、もう夜泣きのピークは過ぎましたよ。一歳になる前はかなりでしたけど』


―――そうよねぇ。



首を傾げつつニンマリと笑うおっさんを見て、俺も腑に落ちた。

あぁ、そうか。原因は娘じゃなくて奥さんか。

(チャマが奥さんていうのもピンと来ないけど)



―――夜は程々にしておきなさいよ。あのコの体にあんまり負担かけちゃダメ。


「……」


―――今日なんか香水まで同じで…仲が良いのも度が過ぎると困りものよ?


『え、わかります?参ったな』


―――とか言って、由文くんも満更じゃないんでしょ。


『…わかりますぅ?いや~参ったなぁ~~』


―――しょうがない子たちね、ほんとに…



うん、もっと言ってやって下さい。

このことに関しては、あなたに手加減なしで言ってもらうのが一番いい。






ほっと息を吐いた。

チャマが戻って来てから、藤原は少し太った。というか健康的になった。

子供に合わせて睡眠時間が規則正しくなった上、朝に晩にチャマの作る食事をとっていれば、自然とそうなるんだろう。


まぁ、いいか。

平和ならそれで。


奏子ちゃんとヒロが遊ぶ声を聞きながら、俺は大きく伸びをした。

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