side升

第28話

――あ、藤原さん。

――おはようございまーす。

――コーヒーいかがですか?

――藤原さ~ん。



やっかましい!!

思わず心の中でそう毒づいて、いかんいかんと訂正した。


ここは仕事の場。

とはいえ、全部自分の中で完結してることだから、べつに言い訳する必要もないんだけど。








藤くん大好きファンクラブ(仮称)は、チャマが帰ってきて以来急速に元の形に戻りつつある。

一位は不動のチャマで、二位が奏子ちゃん、三位がヒロといったところか。たまに入れ替わることもあるけどさ。


それ以下は、女性も男性も色々いるが、はっきり言って全員物の数にも入らない。上位陣が強すぎる。

俺なんて、目に見える好意度でいったら、せいぜい五十番手ぐらいのものだろう。

いやもう競うのもアホらしいし、脱退したいぐらいだが…



『秀ちゃんっ』

「何だよチャマ」

『それが、さぁ…』



微妙な顔つきのチャマに、ヒロもこっちに寄って来る。どうした、何か困りごとか?

「どうしたの」とヒロが聞くと、チャマが内緒話をするように俺たちの耳元へ口を近づけてきた。



『藤くんが、二人目がほしいって言うんだよ』

「!?」

「ふ…ふたりm」

『馬鹿ヒロ!しーっ!』

「ちゃまー」

『あっ、はーい、何?藤くん』



あぁもう脱退したい!藤原を取り巻くこのウルトラスーパー複雑な状況から、俺を解放してくれー!

心の中に嘆きの壁を作っていたら、隣からぽつんとした呟きが聞こえてきた。



「ねぇ秀ちゃん…」

「ん?」

「秀ちゃんも、子供ほしい?」

「えっ?」



思わずヒロの顔を見ると、弱い光を宿した目にぶつかった。

どんな思考の果てに言い出したのかは知らないが、ヒロなりに真剣に悩んだのかもしれない。

俺は笑った。



「あーっ、笑うな!マジメに聞いたのに!」

「いいよ」

「…何が」

「子供はいい。俺はおまえの相手だけで手一杯だから」

「は!?」



あっけにとられたような顔の後、見る見るうちに真っ赤になって怒り出すヒロ。

バカだなぁ。そんなことで悩むなよ。



「まぁ、万が一おまえにも奇跡が起きたら、育てよう」

「……」

「それまでは奏ちゃんを可愛がればいいじゃん」

「…うん」

「あと、あいつらに二人目の予定もあるんだっけ?」

「あああ、それだ!冗談じゃなさそうだよね、藤原の言うことだもん!」

「だな…」

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