第26話
「チャマ。今までのこと、聞いていいか」
『うん』
「まず…そうだな。どこにいたの?」
『●●県の、▲▲市…山沿いのね、わりと大きな町だよ。冬はかなり雪が降るんだ』
「あのオッサンの家?」
『うん。元々はあの人の親戚が持ってた別荘らしいけど』
「病院、あったんだ」
『あった。ベテランの助産師さんとかいて、何とか産むことが出来た』
「ずっと、おまえと奏子と…二人で?」
『生まれるまでは保護者が付いててくれたけど』
「保護者か、あれ」
『不本意ながらね~。“これでアタシもおじいちゃんね!”とか言ってたよ』
「…感謝の念が失せるな」
そんなことを言って、くすくす笑いあった。
裸のままソファに横たわり、まぶたを閉じて抱き合う。
服を着るのも何となくもったいなくて、大きめのタオルを二人でかぶっただけだった。
「じゃあ…どうしてこのタイミングで、戻って来る気になった?」
『んー。ほんとはね、もっと早いうちに何回も戻ってきたくなったんだ』
「……」
『けど、怖かった』
「何が」
『藤くんが俺たちを受け入れてくれるか…奏子を見て笑ってくれるかどうか、不安でしょうがなかった』
何の迷いもなく、伝えることが出来た。
藤くんが笑ってくれた今だからこそ、こうして素直に言えること。
「ごめんな。俺がもっとしっかりしてれば…」
『うぅん、もうそんなのいい。だって藤くん、今こうしてくれてるじゃん』
「今?」
『そう。俺のことまっすぐ見て、抱きしめてくれたでしょ。カナのこと、可愛いと思ってくれたでしょ?』
「うん」
『だから、それでいいじゃん』
そう言ったら、藤くんは急に上半身を起こして、俺のことを見つめてきた。
真剣な瞳に射抜かれて、また胸が高鳴る。
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