第25話
俺の前髪を上げた手が、あごを優しく持ち上げる。
なのに唇はひどく性急だった。
甘くて苦い幸せが、熱い舌を通して伝わって来た。
背中を抱き込まれ、コーヒーが服にこぼれる。
でもそんなのどうだっていい。
『ふじくん…』
のどを震わせた俺を見て、手の動きが止まった。
「どうした?嫌か?」という声に、必死で首を横に振った。
そうじゃない。そうじゃなくて。
『…逆』
「え?」
『藤くんの好きにして』
「チャマ…?」
『お願い。俺が藤くんだけのものだって、今度こそ離さないって…俺の体に教え込ませて…』
たまった涙をこぼさないように上を向きながら言ったら、藤くんが息をのんだ。
床に寝かされ、全身が覆いかぶさってくる。
どこでスイッチが入ったんだろう、獲物にすら魅入られるような野生の瞳。
耳元でささやき声が響いた。
「ばか、由文」
『……っ』
「言われるまでもない。今度こそ逃がさない」
『ぅあっ』
「おまえは俺のだ」
『…うん』
「俺も、おまえだけのもの。だろ?」
『あ…っ、ゃ…』
「泣かせてごめん。ひどいことしてごめん。…今まで一人で頑張らせて、ごめんな」
『う…っ、うぅん…』
小刻みに揺れる頬に、涙と藤くんの吐息が重なった。
無意識のうちに張り巡らせていたバリアが、とろけるように消えていく。
「じゃあ、好きにするぞ」
『ん…』
「目、つぶって」
そう言われて、ぎゅっと目を閉じた。
幸せそうな藤くんの声で、魔法がかけられる。
「力抜けよ」
『……』
「俺のことだけ考えて」
『…ぁ…っ』
「そう。そのまま黙って大事にされてろ」
『…、ふじ、く…っ』
重みが心地いい。啼かされることが嬉しい。衝動を受け入れる痛みすら、どれほど求めていたか。
はしたなくていい。醜くていい。一緒にいられるなら。
愛してる。
今この瞬間、ここには俺と藤くんだけ。
汗と涙、余裕のない顔。
求め合う肌に指の痕が花を咲かせ、呼吸にまざる快感がどこまでも高みを押し上げていく。
『ふじくっ…あぁ、…やっ、ぁん!!』
「よ、し…ふみ…っ!!」
頭の奥までマヒさせる、世界で一番甘い縛り。
―――愛してるよ。
あぁ…
ちゃんと、口に出して言えたかな?
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