◆side直

第24話

結局そのまま、電車で藤くんの家まで行くことになった。

ヒロと秀ちゃんにはいったんバイバイして、また明日ね、って。


久々に足を踏み入れたそこは、記憶より雑然としていた。

奏子をベッドに寝かせた後、コーヒーでもいれようか、ってキッチンに立った。



「チャマのコーヒー、久しぶりだな」

『そうだねぇ。あれ?砂糖は?』

「これ」

『ほい』



インスタントの粉に、スティックシュガー。

いや別にそのこと自体は構わないんだけど、何ていうか…



『ねぇ、ちゃんと片づけしてる?』

「ん、まぁ」

『ちょ~っとサボり気味じゃない?』

「……」

『あとさ、ちゃんと食ってる?』

「…うん」

『ほんとに?さっきギューってされた時、ちょっと痩せてた気がしたんだけど』



藤くんが半笑いで目をそらした。

結構ぐさぐさ、痛いとこ突いたんだろう。


ふふ。俺がまたメシ作ったら食ってくれるかな?

でも最近の俺のレシピって、離乳食とか子供用のが多いからなぁ。






湯気の立つカップを持ったまま、テレビの前に移動した。

大きな画面は真っ黒で、直接床に座った俺たちの姿がぐにゃりと浮かび上がる。


少しだけあいた隙間がさみしかった。

詰めてもいいかな。でもそしたら肩同士がぶつかっちゃう。

おかしいな…子供まで出来た相手なのに。

何だろ、今さらこんなドキドキして、どうしちゃったんだろう俺。



「チャマ」

『えっ?え、あ、何?』



裏返った声は自分でも驚くほど大きくて、藤くんも目を丸くした。

「なに緊張してんの」という含み笑い。

『緊張なんかしてない』と言ったら、「顔真っ赤」っておでこに触られた。



それで分かった。

肩どころか、体じゅうが待ち望んでいたってこと。

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