第23話

ふと気づいたら、小さな右手が俺の髪を撫でていた。

母親の泣く姿を見て、頑張って励まそうとしてくれたらしい。


俺も驚いたけど藤くんはもっと驚いたみたいで、「いい子すぎるだろ」って笑ってる。



「チャマ」

『ん?』

「この子。名前、何ていうの」

『かなこちゃん』

「…かなこ」

『うん。演奏の奏に、子供の子』



そう言ったら、さらに笑みが深くなった。

ヒロと秀ちゃんも寄ってきて、「奏子ちゃん」「奏ちゃん」と何度も口に出してる。


いい名前だ、って言われた。

可愛い、頭よさそう、美人、しっかりしてる、とかも。

当たり前だろ!俺と藤くんの子供だもん!


騒ぎ続ける俺たちを、藤くんに抱かれた奏子はきょとんとした目で見つめていた。








「ねぇ、ひとまず移動しない?」

『そうだね。どこ?誰かの家?』

「荷物でかいからなぁ」

「ヒロおまえ、車だろ」

「うん」

『でも、俺とカナは駄目だよ。電車で行く』

「なんで?」

『おまえの車、チャイルドシートないだろ』

「あ、そっか」

『そうよ。あれ使ってないと減点されるんだぜ』

「うえー。じゃあ別行動で…」



そんな話をしているうちに、おちびさんが藤くんの腕の中でこてんと脱力した。

あーあ、眠っちゃったか。



「あれ?奏ちゃん寝てるみたい」

『しょうがないよ。今日朝からバタバタしてたもん』

「あ…っと、やべ、頭おちる」

『あはは、ちょっとかしてー』



藤くんの抱っこもなかなか様になってるけど、やっぱりまだ危なっかしいよね。


受け取って、そのまま背中をぽんぽんしてたら、藤くんがカナのほっぺに触れた。そぅっと、慈しむように。

すごく優しい目だった。

そしたら、眠ったままのカナが笑った。

それが嬉しくて、俺も指を重ねた。



あとから秀ちゃんに、「入り込めない空気だった」って言われた。

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