光の糸
side直
第22話
何度も“会いたい”と思ったんだよ。
ほんとだよ。
こんなに長く間をあけたくせに何言ってんだ、って感じだけどさ。
駅のホームに降り立ち、キャリーケースの把手をのばしてしっかりと俺のそばに引き寄せた。
せわしなく走り去る電車。
東京は久々だ。うーん、やっぱ人多いな。
財布から切符を取り出して、あたりを見回す。
あいつら迎えに来るとか言ってたけど、どこだろう。
改札出なきゃダメか?
そう思った時だった。背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
懐かしさも何もかもとりあえず置いといて、腹の底から嬉しさがこみ上げてくる。
満面の笑みで振り向いてやった。
『おぃ~っす!!』
「チャマ!!」
すさまじい勢いでヒロが駆け寄って来た。
そのまま飛びつかれて、さすがに慌てる。
ツアー最終日のアンコール後でもなかなかこんな力強いハグにはお目にかかれない。
『ちょっ…ヒロ、おい!いてぇよ!』
「……」
『なぁ、苦しいって』
「チャマ…」
ぽつりとした呟きがあまりに切なくて、心臓がきゅっと締めつけられた。
ごめんという言葉を飲み込み、ヒロのすぐ横に目をやる。
『秀ちゃん…』
「うん」
『ただいま』
「おかえり。待ってた」
そして。
「チャマ」
『…藤くん』
しっかりと至近距離で顔を合わせた。
瞳はそらさない。泣きたいのか笑いたいのか分からなくなるほど、会いたかった。
じめじめした雨模様の空から不意に雲が引き、さっと光が差し込んでくる。
秀ちゃんがヒロの腕をとり、数歩離れた。
―――パパ?
『うん、そうだよ。この人がパパだよ』
巨大なキャリーケースの上から、子供の声。
把手にしがみつくように座っていた小さな体を抱き上げた。
藤くんの顔が曇ることはなく、逆に両腕が俺たちに向かってのびてきた。
力強く抱きしめられる。
やばい。本当に息ができなくなりそう。
『藤くん』
「うん」
『きみと俺の、娘…です』
「…うん」
『ふじ、くん…』
「…ありがとう。チャマ」
それが限界だった。
堰を切った涙は止まるところを知らず、俺は肩をふるわせて泣いた。
立っていられなくてしゃがみこんでも、藤くんはずっと抱きしめ続けてくれた。
ごめん。ありがとう。
…帰ってきて良かった。
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