第21話

「少し時間をおいて、あの子が落ち着いたら帰そうかと思ってたけど…ダメみたいね」

「え?」

「まぁ心配いらないわ、あたしが一緒にいるから。言っとくけど沖縄じゃないわよ」

「じゃあどこに」

「内緒。由文くんにも言うなって言われてるし。大丈夫、病院もあるし、紹介状もばっちり書いてもらったから」

「そういう問題じゃねーだろ!」

「ほら、そうやってすぐムキになる」

「……」

「そんな父親なんかいらないわ。あの子なら父親役も母親役も、立派に一人でやってみせるわよ!」




そこで電話は切れた。


今の時代、多少の無茶をすれば、人ひとり探し出すぐらい難しいことではないだろう。

でも、それは俺がもっと大人になってからだと思った。


会いたい。

しかしあの時の俺には、チャマを探すことすら許されなかった。










それから数か月たって秀ちゃんから回って来たメールには、赤ん坊の写真がくっついていた。

正直、実感が湧かなかった。


チャマが全てと思っているうちは、俺は永遠にこのままかもしれない。

後悔し、反省し、離れて過ごす時間に意味を見出そうとした。




―――愛してるよ。




心の内でそう呟けるようになるまで、二年近くかかった。

悩んだし苦しんだけれど、それ以上にチャマの気丈さを思うと背筋がしゃんとした。


深夜にヒロから電話を受けたのは、そんなタイミングでのことだった。




回り道をした。さんざんチャマを泣かせた。

でもだからこそ、今度こそ、心の底から願う。


会いたい。


チャマに。

そして、あの日の俺が受け入れられなかった、小さな命に。

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