side藤

第20話

電話を受けたのは一度きり、チャマがいなくなった直後だった。

あの家で戻ることもないあいつを待ち続ける不毛な時間を過ごしていた時、携帯に見たくもない番号の着信があった。



「…はい」

「もっしもし~、お元気ぃ?」

「……」

「ふ・じ・わ・ら・くぅん?」

「アンタか」

「えぇ?」

「チャマをどこにやった!」

「まーっ、なんて人聞きの悪いこと言うの」

「やっぱそうか。弱みにつけこんで連れてったんだろう」



そう言ったら電話の向こうが少し静かになった。

当惑したような、考え込むような、…憐れむような。



「残念ね」

「えっ?」

「今回に限って言えば、脅しも懐柔もしてないわよ」

「…すいません。チャマ、いないんすか」

「えー?いるわよ、アタシの所に」

「やっぱいるんじゃねぇか!!」

「由文くんの意志でね」

「なに?」



今度は俺が黙る。


思えば、俺とチャマが付き合うことになったのは、このオッサンの脅迫まがいの行為がきっかけだった。

でもそのついでに四人の結びつきまで強くなったんだから、良かったのか悪かったのか。



「お話は全部聞かせてもらったわ」

「…う、」

「あの子がどんな気持ちであたしの所に来たと思うの?」

「……」

「あたしが好きなのはね、あたしのことなんか相手にしないで藤原くんのことだけ見てる、そんな“直井由文”よ」

「そんなこと…」

「由文くんに何をしたの」



そう聞かれても、答えることができない。

否、何から言えばいいか分からない。


電話越しにわずかな嘆息。

次にぶつけられた言葉は冷ややかな硬さをもっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る