第17話
俺は昨日藤くんに抱かれながら、確かに感じていた。
最初は赤ちゃんのことも気になったし、だからこそふざけんなとも思った。
けど、途中から快楽に飲み込まれてどうでも良くなった。
悦ぶ体に気持ちが引きずられるのも、全部見透かされていたんだろう。
それぐらい藤くんは俺のことを知り尽くしてる。
――ゃぁん、あ、ぁあっ
――チャマ…
――藤くん、ふじくぅん…
――はぁ…は、…逃がさねぇよ…
――え、…ぁあ、ん
――おまえは、俺のだ
――ぅあ、っ!
――チャマ、チャマ…!
あの瞬間、全てを忘れて藤くんの肩にすがった。
無理やり犯されていたのに。いくら好き同士でも、強姦に近かったというのに。
出来たばかりの赤ちゃんを大切にしようと、そう誓ってから何時間もたたないうちに。
俺に藤くんのことを責める資格はない。不安でどうしようもなかったのはお互い同じだ。
そして、心の底からお互いを必要としているのも同じだ。
情けなくてみっともない、でも世界一大事な人。
お腹の子だって、そんな想いが幾重にも積み重なってできた、奇跡みたいなものなんだから。
事情を説明し終わると、ドラムのうまいオネエさんは長いため息をついた。
そしてボソリと吐き出すように言った。
「心当たりならあるわ」
『ほんとですか』
「あたしの持ってる別荘がね、北の方にあるのよ。もう何年も使ってないけど」
『東北とか、あっちってこと?』
「そ。ただし条件がある」
『…何』
「あなた一人で行かせるのは不安すぎるわ。意味わかるわよね」
『…はい』
「あたしも行く。大丈夫、ベースを弾けとかコックをしろとか、そういう押し付けはしないから」
『……っ。…すいま、せ…』
「馬鹿ね、泣くんじゃないの」
『…ぅ…っく…、』
「好きな男の子供ができたんでしょ。産む決心もしたんでしょ?ならもっと自信持ちなさい」
『……』
「大丈夫。あなたならきっといいパパになれるわ」
『…ママです』
「あらやだ!そーよねぇ!」
豪快に笑う声が通話口から響いてきて、俺もつられるように笑った。
目を閉じ、涙をふり絞る。
まぶたの裏にかっこいい“パパ”の姿がいくつも浮かんで、消えた。
ごめん藤くん。弱い俺を許して。
―――愛してるよ。
胸を張ってそう言い合える日が来ることを夢見て、俺はきみから離れる。
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