夢
side直
第16話
気持ちいいと思ったのが、一番の理由だ。
小雨の降る中、逃げるように都内をさまよった。
自分のマンションには怖くて帰れなかった。
あそこには藤くんがいる。
ヒロや秀ちゃんも、起きたらきっと俺を探すだろう。
―――どうしよう。
別の土地へ行くと言ったって、具体的なアテがあるわけじゃない。
実家へ行くわけにはいかない。ヒロたちが物凄い勢いですっ飛んでくるのは目に見えてる。
事務所に相談して、内緒で何とかしてもらうか?
でもいきなり今までの経緯をぶちまけたら、泡吹いてぶっ倒れるスタッフが出かねない。
―――あぁ。どうしよう、不安すぎる…
妊婦がそんなにあちこち動き回るな、神経使うな、ってのはよく言われることだけど、気にしてる余裕はなかった。
心細さMAXのまま、携帯を取り出す。
誰かこんな時に頼れそうな人はいないだろうか。
携帯が突然着信を知らせ始めたのは、アドレス帳を繰っている最中だった。
ドラクエの冒険の書が消えた時の音が延々と続く、最悪の着信音。
はるか海を隔てた、沖縄からのコールだ。
表示されている名前を見た瞬間、俺は心を決めた。
『もしもし』
「あらぁ由文くん、今日はずいぶん早く出てくれるのね」
『そうっすか』
「そーよぉ!前回はコール音46回分待たされたもの!」
『数えてんのかよ』
「ふふふ。それでどぉ?そろそろアタシのとこに来る気になった?」
『………』
「あら、どうしたの」
いつもなら吠え散らかしてお断りする俺がやけに静かな反応を見せたことで、相手もおかしいと気づいたらしい。
『ちょっと相談があるんすけど』
「……」
『どっか、隠れられる場所、知りませんか』
「隠れる?」
『そう。できれば環境が良くて、産婦人科が近くにあるとこ』
「何よ、その条件は!?」
びっくり仰天といったふうの声を聞きながら、あぁ藤くんもこうやって驚いてたんだな、と思った。
今さらながらにそのヘビーさに気づき、頭を振った。
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