side升
第12話
思ったより暗い顔じゃないな。
やって来たチャマを見て、そう感じた。
「とりあえず座って。お茶飲む?」
『うん』
「ノンカフェインだから安心して」
『…んふふ。ありがと』
ヒロが労わるように、チャマの肩に手を置く。
俺が一番好きなヒロの表情。
人を安心させる、母性にも似た包容力。
「さっきはごめん」
『へ?』
いきなり謝るヒロに、チャマが温かいお茶をすすりながら首を傾げた。
「飛び降りるとか、変なこと言って。ごめん」
『あぁ…いや』
「飛び降りたかったらここにしてね」
『ここ?』
「ウチってこと。そこの窓ならいつでも提供するから」
『一階じゃねーかよ!』
「だからに決まってんじゃん!」
突っ込みながら笑う姿が、それを受けて笑い返す姿が、とても自然だった。
二人が笑うのを見ていたら、不意に泣けてきた。
どうしたんだろう。年とったのかな。
『あー!秀ちゃんが泣いてる!』
「ええ!?どうしたの?」
「い、いや、別に…」
焦る俺を見て二人が心配してくれる。
心配なのはチャマのはずだったのに、これじゃあべこべだ。
『秀ちゃん』
「ん?」
『ヒロも、心配させてごめん。振り回してごめん』
「いや全然。俺たちのことより…」
『うん。ちゃんと話すね』
軽くうなずくと、チャマは穏やかに笑った。
『俺はどっか別の所に行く』
「…え?」
『本当にごめん。でももう決めたんだ』
「ど、どうして?なんで?」
『俺と藤くんは、これ以上一緒にいることは出来ない』
「だからなんで!?だって、赤ちゃんは…お腹の…」
『今の状態だと、藤くんはこの子のことを受け入れられないから』
「…嘘、」
「……」
『このまま産む方向でいったら、藤くんが壊れる。かといって、産まないことにしたら俺が耐えられない。だから離れる』
「そんな!」
『どっちを選んでも何かが犠牲になるなら、俺はこの子の命を守るよ』
チャマの決意は重かった。
ヒロが必死で考え直すよう説得している。
でも、翻意は難しそうだ。
―――男らしいやつだな。
違うか、こいつ女なんだっけ。
まぁどっちでもチャマはチャマだけど。
本人の意志に任せようと思う俺は、ヒロに怒られるだろうか。
冷めたノンカフェイン茶を一口飲んだ。
意外とうまかった。
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