side増

第11話

病院を出た後、俺の家へ車を走らせた。

短時間であまりに色んなことがあったせいか、二人ともぐったりしていた。



「秀ちゃーん」

「うん?」

「ねむい」

「おやすみ」

「え~、一緒に寝ようよ」

「あぁ…普通に疲れたな」

「だよね」



お腹も減っていたけれど、睡眠欲の方が勝った。

ベッドに転がって何分もしないうちに意識が飛んでいた。








携帯の鳴る音で目がさめた。

時計を見るともう夜中と言っていい時間になっていて、慌てて起き上がる。

はいはい、誰だ。


―――あ。



「もしもし?」

『おっす、オラ直井!』

「ふっ」

『あ、おまえ笑った?バカにしたな?』

「いや、だってさ。ちょっとこの年で悟空のマネは厳しいんじゃない?」

『そうかなー。俺こんな頑張ってんのになー』

「何をよ」



けらけら笑う声は底抜けに明るくて、正直ほっとした。

なぁんだ、良かった。チャマ元気じゃん。きっと藤原とうまく話し合えたんだね。


そう思った時、俺の手から携帯が取り上げられた。

え?と振り返ると、秀ちゃんがいつの間にか起きていて、眉間にしわを寄せていた。



「もしもし。チャマか」

『おぅ。そっちは、秀夫大統領かい?』

「今どこ」

『…んだよ』

「いいから、どこにいるんだってば」



後から聞いたところでは、この時秀ちゃんは尋常じゃない危機感を持っていたらしい。


俺も気づくべきだった。

うかつにも頭からすっぽり抜けていた。

チャマは本当に自分が大変な時、周囲にそれを悟られないようバリアを張り巡らせることがある、ってこと。



『どこってほどでもないよー。甲州街道の…渋谷の近くかな』

「車?」

『まぁ』

「じゃ、今すぐヒロんち集合」

『……』

「頼むから来てくれ。おまえ、自分がどんな声出してるか分かってるか」

『……う、るせぇな…』



かすかに漏れ聞こえてくるチャマの声から急に張りがなくなり、迷うような口調になっていく。

本能的にやばいと思い、携帯へ向けて叫んだ。



「チャマ、うち来て!一人でいいから、ゆっくりでいいから、何があったか教えて!」

『…今、すぐ?』

「うん。タイミング逃して、ふらっとその辺から飛び降りでもされたら嫌だし」



さすがに言い過ぎかとも思ったけど、チャマは笑わなかった。

秀ちゃんも黙って目をそらした。


…何が、あったの?

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