心の鍵
side直
第10話
藤くんの恐れも戸惑いも、本当はわかっていた。
いきなり突きつけられた突拍子もない展開、漫画も真っ青なレベルだもん。
きっと俺自身も余裕がなかったんだろう。
『どうしてこんなことに』って思いながら、藤くんにすべて受け止めてほしいと願っていた。
つまり、わがまま過ぎた。
でもね、藤くんにだけは大人でいてほしいと思ったんだよ。
やせ我慢でも何でもして、「大丈夫だよ」って笑ってほしかったの。
けど、そんなの甘い妄想で…
現実はひどくシビアだった。
体だけのつながりが終わった後、俺をソファに押さえつけていた力がふっと緩んだ。
表情の読めない、それでも愛しい相手に、必死でかすれ声を投げかけた。
『藤くん…俺は藤くんのこと、信じてるから…』
「………」
「お願い…、何か言って…」
「信じてるって何だよ」
『え?』
「そんな言葉で全部縛りつけようとするな!」
怒りの瞳に、最後の望みも絶たれたことを悟った。
いや違うか。信頼という美しい言葉に隠されたエゴを、見事に突かれただけだ。
ごめんなさい。
最後のターンすら、俺は間違った。
妊娠したことがわかってからずっと、ボタンの掛け違えが続いていたのだろう。
きみとの間にできた子が、誰よりも大切なきみの笑顔を奪うなら。
もう一緒にはいられない。
いない方がいい。
俺たちは、離れるしかない。
苦しげに顔をゆがめる藤くんを、それ以上見続けることは出来なかった。
泣くのを必死で堪え、体を引きずるようにしてバスルームへ向かった。
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