side升

第5話

内臓が女性って新しいな。

フランス語だと女性名詞と男性名詞があるけど、これがそうか。いやいや違うって。


 


現実感のないまま、日本語の斬新さについて一人ノリツッコミをしてしまった。

胃や肺や心臓や盲腸も女性なのか?違うよなぁ。


説明はひとまず終わったようだが、誰も何も言えない。

無意識のうちにチャマを見続けていたようで、はたと目が合った。



『秀ちゃん、そんな見つめないで』

「あ…ごめん」

『でさ、これからのことなんだけど』



その言葉にようやく思考が元に戻る。ぼうぜんとしていた藤原も、ハッと表情を変えた。



『とにかく、俺に子供が出来た。もうこれは間違いない事実なわけよ』

「そうなのか」

『うん。なんか写真とか検査の結果とかもあるし』

「…わかった」

『そいで藤くん。きみがお父さん』

「俺…?」

『他に誰がいんの』



血の気の引いた顔で、軽く歯をくいしばる藤原。おさまりかけた混乱が再び襲ってきたらしい。



『俺は藤くん以外の人と、子供が出来るようなマネをした覚えはないよ』

「そっか…そうだよな」

『どう思う?』

「え?」

『俺はさっき初めて聞いた時、めっちゃ驚いた。藤くんは?』

「…お、れはっ…」



部屋中の視線が藤原に集中する。


焦りまくる様子は、見ていて気の毒なほどだった。



寝耳に水のトンデモ話を聞かされてからまだ20分も経っていない。


これで父親になる覚悟が出来たら、逆に凄いだろう。



…そうだ、母親になる覚悟だって必要だよな。そこら辺どうなんだ?

そう思ってチャマを見たら、うつむいて床を見つめる姿が目に入った。



『…先生』



心なしか、声が震えている。

あぁ…そうだよな。いくら妊娠したとはいえ、普通の女性でも出産ってかなり大変だろうし、不安にもなるだろう。


 


このまま何か月もお腹の中で赤ちゃんを育てられるのか?


それに、どうにか生まれたとしても、その後のリスクも大きすぎる。どう考えてもチャマが心配だ。

まずは落ち着いて、産むかどうかも含めてよく考えないと…



『そこにある無痛分娩のパンフレット、見せてもらえますか』



って、余裕で産む気だーーーっっっ!!!

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