第3話

異変が起きたのは、4人でもう一度病院を訪れた時のことだ。


「一週間後に」と言われた接種当日。

俺とヒロと秀ちゃんは何の問題もなかったのに、チャマだけが別室に呼ばれた。

ベテランぽい看護師さんが緊張した面持ちなのが気になった。



「何ごと?チャマだけ…」

「さぁ…」



とりあえず3人は先に、と言われ、注射を済ませる。

って、何じゃそのぶっとい針は!

そんな針の穴まで完璧に見えるほど太いとかやべーだろ、シャーペンの先を斜めにぶった切りしたみたいな恐ろしさ、うおおおー!!!



「あれ?藤原、注射苦手だっけ」

「正直ちょっと面白いね」

「チャマがいたら、藤くん可愛い~!って言ってくれただろうになぁ」

「ねぇ」

「…おまえらウルサイ」



涙目にならなかったのは不幸中の幸いだった。

が、その直後に俺たちを待ち構えていたのは、予防接種なんか比じゃないくらいとんでもない話だった。








――注射は終わりましたか。では、こちらへ来てください。


「…?」



有無を言わさず小部屋へ連行された。

中にはチャマと、白衣を着たせんせーが5人。…え、5人も?



「なんでこんな沢山、お医者さんがいるんだろ」

「さぁ」


――では直井さん、皆さんにも説明しますね。


『お願いします』



何だよ…何の話だ?



――結論から申し上げます。直井さんには今回、予防接種を行うことはできません。



「は?」

「はぁ」

「そうですか」



えらく間の抜けた返事になってしまったが、そうとしか言えない。

そりゃ、何かしら事情があって打てないこともあるんだろうさ。そんな大げさにすることか?



――理由は、直井さんが妊娠されているからです。


「は…」

「………」

「はぁ!?」



目が点になると言うか、狐につままれたようなと言うか、もうね、うん…



「妊娠?」

「誰が?」

「だって、チャマって男でしょ?」


――外形的には男性ですが、内臓は女性だということです。



5人の医者がそろって、大マジメに頷く。

ごめん。この人ら全員、頭おかしいんじゃないか?



「えええええ!?」

「何だそれっ」

「…チャマ」



俺がおそるおそる呼びかけると、チャマがこっちを向いた。

何か、決意を秘めたような目をしていた。

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