side直

第24話

何のかんのと話していたヒロと秀ちゃんの声が、ふっつりと途切れた。寝てしまったんだろうか。

バスの一番後ろ、藤くんの隣で目を閉じて、ぼんやりとそんなことを考える。



藤「チャマ、起きてる?」

直『うん』

藤「今さらだけどさ、聞きたいことがあるんだ」

直『何?』

藤「いつから俺のこと好きだったの?」

直『へ!?』



本当に、何を今さら。驚いて目を見開いた。

藤くんは鼻の下あたりをこすって、照れたように笑っていた。



直『そーだなぁ。はっきり意識したのは、中学…2年ぐらい、かな?』

藤「…そっか」

直『でも藤くん、知ってたでしょ』

藤「う~ん」

直『もうずっとね、好きなのが当たり前だったからね。おかげであのオヤジには、ここぞとばかりつけ込まれちゃったけど』



そう言ったら、渋い顔をされた。

いくら追い返しても諦めずに俺を誘ってくるオッサンは、目下一番の悩みの種ではある。



藤「つぅか、あのオネェ口調には参った。初めて聞いた時からずっと慣れないわ」

直『あぁ…(笑)』

藤「とんでもねぇ脅しをかけてきたくせに、よくあんな堂々と顔出せるよな」

直『同感』



頷きながら、再び目を閉じた。

藤くんの手が俺の頭を抱き、肩に寄りかかる形になった。



直『ごめんね』

藤「え?」

直『もう後悔も後戻りもしないし、覚悟も決めたけど…でもやっぱりごめん。俺がここまで藤くんのこと好きじゃなきゃ、こんなややこしいことにならなかったのに。藤くんが、男と付き合うこともなかったのに』

藤「……」



怒るかあきれるか、と思ったら、どっちも違った。

ささやくような、穏やかな声が返ってきた。


一緒に住んでいたほんの短い期間に、“3人を切れ、ソロでやれ”って俺が言った時。あの時と同じ声。



藤「チャマが俺を好きじゃなかったら、俺たち4人の根本が崩れると思う」

直『……』

藤「おまえは俺のこと好きじゃなきゃダメなの。そんで俺のそばにいないとダメなの。わかってるだろ?」

直『…うん』



長い後部座席に、そっと押し倒された。

ごく自然に唇がおりてくる。それを幸せだと思う俺がいる。



藤「…チャマ…」



この声はズルいよな。俺ほんとに、この人になら抱かれてもいいや。

他の男なんて絶対願い下げだけど、藤くんだけは特別だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る