side藤

第25話

高「おーい、東京入ったよ。起きて」

藤「…ぁあ…」



高ちゅーの声で、意識が浮上した。バスの揺れが心地良い。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

ふと横を見たら、チャマが俺にもたれかかって爆睡していた。しっかり繋がれた指を見て、高ちゅーが笑った。



藤「ちゃーま。もうすぐ着くって」

直『んぁ~…』



寝起きのブッサイクな顔で、大あくび。

マヌケすぎて笑ってしまう。こいつステージの上だとすげぇ格好いいんだけどな。



直『ぅー、あーっ…おはよう藤くん!』

藤「はよ」

直『なんかライブの夢見たわー』

藤「へぇ」

直『藤くん格好よくてさ、音も凄くてロックでさ、なのに歌詞めっちゃ間違えてた(笑)』

藤「マジ?」

直『なんかその日、藤くんのお父さんお母さんが来てたんだけどね、超見られてたよ』

藤「やっべぇええ。なんでそんな夢見てくれてんだよ」

直『え?…あ、そっか!』



ラストの東京公演は、うちの親とか姉ちゃんたちが見に来る予定なんだ。



藤「正夢だけは勘弁してくれー」

増「大丈夫大丈夫」

直『お、ヒロ秀!おはよっす』

升「別にいいじゃん。俺あの“にゃにゃにゃー”って歌うおまえ、わりと好き」



その言葉を受けて、ヒロが微妙に妬ましそうに笑った。



増「秀ちゃんて、ほんっっとに藤くん好きだよね」

升「?」

増「一見わかりにくいけど、実はかなり見てるし、無言で色々わかりあえてそうだし」

直『確かに。俺たまに“負けたなー”って思うことあるもん』



チャマとヒロがけらけら笑いながらそんなことを言い、秀ちゃんが「えぇ?」とか困惑してる。

いや、そんな勝ち負けとかどうでもいいから、歌詞の復習に付き合ってくれよ。



増「それよりさ、東京こそ出入り禁止にしない?あのヒト」

直『そうだ!藤くんのお母さん来るってのに、楽屋にあんな生き物がいたら大変だよ!』



ああああ、その問題もあったか。



藤「う~~……」

升「というわけで、よろしく。体張ってでも止めて」

高「えっ、また俺?」

増「いけるよ、高ちゃんなら☆」








ツアーが終わるまで、もう少し。

でもその後も俺たちは何も変わらないだろう。



直『はーい、そろそろ高速降りまーす』



一緒にいたいから、ずっと一緒にいる。


そんなバンドが1つぐらいあったって、いいよね。











【了】

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