side升

第19話

――バカねぇ。一時の感情で、そんな。


藤「一時の…」

直『感情?』



その言葉で、すれ違いを実感した。

ダメだ。そんなことを言っているうちは、チャマは絶対に手に入らないですよ。



――日本の音楽シーンを変えることが出来る、由文くんがそんな成功をつかむのをみすみす見逃すの?この子の将来を潰すの?


直『何それ!いつの間にそんなデカい話になってんの!?』

藤「チャマ」



全力で拒否するチャマの肩に藤原がそっと触れて、4人の気持ちを代弁する。



藤「シーンを変えるなら、俺たちと一緒に。こいつなら絶対にそう言う。誰にどんだけバカにされようと、夢物語だと言われようと」


――でも、この子とあたしでなら、きっといい音楽が作れるわ。スタッフも最高の人間を揃える。きっと世界にだって通用させてみせる。



真剣な瞳でそう言われたこと自体は、おそらくかなり光栄なことだろう。

ただ、相手と手段を間違えまくっているのが痛い。



藤「…他の若いヤツだったら、乗ったかもな」

升「確かに。魅惑的な言葉ではある」

増「でもチャマは乗らないでしょ」

直『うん』



そういうことだ。俺がチャマの立場でも同じだ。


藤原が好き。藤原を大切にするチャマが好き。藤原を信じるヒロが好き。

一緒にいるのが心地良いというのは、そういうこと。






藤「よくもバカにしてくれたな。あんたはミュージシャンなんかじゃねぇよ。俺たちの仲間を一番卑劣なやり方で奪おうとした悪人だ」


藤「あんたも昔バンドやってたんだろうが。俺だって子供の頃聴いてたよ、かっけぇと思ったし、憧れたこともあった。けどな」


藤「あんた、前のメンバーにもこんな調子で接してたのか。こんな独りよがりなことしてたのか」


藤「どうしてバンドが解散になったか、仲間が自分から離れていったか、わからないのか?むしろそれでよくバンドが何年も続けられたな!」


藤「例えどんなに良い音楽を作れるとしても、あんたみたいな奴にチャマは渡さない。チャマの一番大事にしているものを利用するなんて、それで脅すなんて!そんな態度でチャマの音を手に入れたつもりになるような、そんな上っ面しか見てないヤローに、こいつを任せられるわけがないだろう!」

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