第17話
そう叫んで、荒い息で相手をにらみつけた直後。
波音の彼方から車のエンジン音が聞こえた気がした。
あの低音は四駆だろうか。サトウキビ畑の中を突っ切って、徐々に近づいてくるような感じ。
何だ?客か?
――そういう子だからよ。
直『え』
――あなたをどうしても欲しいと思った理由。ベースが気に入ったって言うのは、もちろんあるわ。でなきゃ、自分が今後の人生の大半を費やすつもりのバンドになんて誘わない。でも強引なことをした理由は他にもあるの。
直『…何だよ』
――パートナーがほしかった。
直『パートナー?…それって、』
――別に性的なことなんて望まないわ。ただここであたしと一緒に、ずっと演奏してくれる人。そうしたい、してくれると心から望める、まっすぐな子。
直『……』
――あたし達みたいな人種はね、どうしたって相手が限られてくるの。ゲイのコミュニティはあっても、誰でもいいわけじゃない。自分が一緒にいたい相手を手に入れるには、入口が多少強引でも仕方ない。5年後10年後をともに出来れば、きっとそれも含めて思い出話に…
所々で休みながらゆっくりと語られたのは、同性愛者の悲哀。
藤「それはまた一方的な話ですね」
直『えっ?』
話に引き込まれて、ちょっと聞き入ってしまいかけた、まさにその時だった。
俺が世界で一番好きな声が、突然耳に飛び込んできた。
藤「ほだされてんじゃねぇよ、チャマ」
直『藤くん…!!』
玄関から来たんじゃない。キッチンの端の窓に、細長い全身がもたれかかっている。
藤「それが、こいつを俺たちから引き離した理由ですか」
――……。いらっしゃい。
藤「驚かないんですね」
――来たこと自体はね。いきなり窓から入ってきたのには、わりと驚いたけど。
その時、窓からもう2人の仲間の姿がのぞいた。
増「いてっ」
升「何だよ、早く入れよ」
増「ちょっと待ってってば。ここ意外と高さがある…」
直『ヒロ!秀ちゃん!』
増「…あ」
窓枠に手や足をかけたまま、侵入者2号がにこっと微笑みを浮かべた。
増「チャマ、迎えに来たよ。帰ろう」
藤「なんで俺のセリフとるんだよ」
升「だよな」
そんなことを言い合って笑う3人は、全っ然いつも通りで、思わず俺も笑ってしまった。
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