第四章
side増
第15話
「会ってから聞かせて」と言った“事情”は、たった1枚のCDで見事に全部説明された。
空港のロビーで再生したウォークマン。秀ちゃんと片耳ずつ分けたイヤホン。頭の奥まで直接届きそうなチャマの声と、わけのわからない脅し。
増「何これ…」
升「本当に、チャマが?」
藤くんが黙って封筒を差し出す。見慣れた筆跡で書かれた“藤原基央様”という宛名。
その横には、一見しただけだとFFの敵っぽくも見えるロボットの切手が貼ってあった。
升「ヒロの言ったことが当たってたわけか」
増「当たってほしくなかったけどね」
沖縄のどこに行けばいいのか、正確なところはわからなかった。
ただ、知っている人間の心当たりはあった。高ちゅーだ。
早朝まだ暗いうちに電話を鳴らされたマネージャーは、俺よりひどい寝起きの声を聞かせてくれた。
――おはよう。俺たち3人、今日休むね。みんなによろしく。
――え…え!?どうした…
――沖縄行くから。
――………
――行かせないとは言わせない。理由だって、わかりきってるから言わない。でも1つだけ教えて。チャマはどこにいるの?
少し間があった。たかが数秒の沈黙だったけど、あぁやっぱりこの人は知ってるんだな、と思った。
――…現場のマネージャーごときが、そんなの知らされてると思う?
――さぁ。世間一般のマネージャーって職種のことは、よく知らない。でも他でもない、俺たちと10年以上一緒にいる高橋さんて人なら。
何でもない感じで言ったし、実際何でもないと思う。これが当たり前だ。
高ちゅーは全部見てきた。だから全部知ってる。
俺たちにとってチャマがどんな存在か。誰か1人でも欠けたら、俺たちがどうなるか。
――教えて。早く!
かすかに笑うようなため息が聞こえた。
――正確な住所まではわからないけど、メモして。
――うん。
――那覇空港からレンタカーかタクシーで、北東に向けて1時間ぐらいだって聞いてる。目印は××ホテルの近くの…
だいたい聞き終えたところで、折良く空港内に那覇行きの便の搭乗案内が流れた。
電話を切る直前、「俺クビかなぁ、参ったなぁ」と、大して参ってなさそうな声で言われた。
――大丈夫だよ。
――他人事だと思って…
――他人事じゃないって。
絶対に大丈夫。チャマが戻ってきたら、絶対クビになんかさせないから。
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