第14話

食事をしながら、はるかに広がる海を思った。


うまい。あの時の味とよく似てる。

追加した一皿を半分こして食べる藤くんとヒロの横で、俺と秀ちゃんは「早く泳ぎに行こうよ」と、ソワソワしていたなぁ。


ぼーっとしながらスプーンを動かすうちに、いつの間にか残りはあと一口分だけになっていた。

ふと隣を見たら、もう1人の前のタコライスは、全然手をつけられないまま放置されている。



『食わないんすか』


――何だか食欲なくなっちゃって。


『嘘。あんだけ演奏しといて、それはないでしょう』


――そうねぇ…



最後の一口を頬張る俺を見ながら、彼(彼女か?)は静かに笑った。

今までに見せたことのない、曖昧な表情で。



――由文くん。あたしのドラム、どう?


『どうって、上手いと思いますけど』


――そ。ありがとう。


『…何ですか』


――別に。


『いや気になるし。そんないかにも意味ありげな感じで止められても、こっちは消化不良なだけだし』


――あら、そう?タコライスってわりと胃に優しい…


『そういう意味じゃねーよ』



食い気味で突っ込んでやったら、笑みがふっと消えた。

冷たいお茶がコップにつぎ足される。


しばらくすると、俺を脅しにかかった時みたいな、低くて落ち着いたトーンの声が聞こえてきた。



――あなた、藤原くんに全部喋ったわよね。


『えっ』


――でなければ、こんなにあっさり沖縄まで来るはずないものね。


『そ…っんなこと、してない…』



うわずる声で、肯定したも同然の否定。

あぁ情けない、どうしよう。俺今かなりヤバいの?なんでこんな急展開?

もしかしてこれは、藤くんをこっちまでおびき寄せるためのワナだったとか。



――あぁ、安心していいわよ。あの子に直接会って危害を加えるつもりはないから。


『うぉお~っ』



なんでバレバレなんだ。

ていうかこの様子じゃ、俺があの時会話を録音してたことまでバレてんのか。

ヘタしたら藤くん、あのCD聞いてすぐこっちに来てくれるかもしれないのに。


焦りまくる俺をよそに、自称オネエの大先輩は大きく喉を鳴らしてお茶を飲む。そして…



――あなた、男と寝たことある?


『は!?』


――藤原くんのこと、好き?



唐突に、ものすごく答えに困る質問をしてきやがった。

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