side直
第13話
――じゃ、お昼にしましょうか。
『へーい…』
――あら、疲れた?最初から飛ばし過ぎちゃったかしら。
『…そんなことないっす』
想像していた通り、いやそれ以上に、ドラムの腕は確かだった。汗を拭きながら、大きく息をつく。
――お腹空いたでしょ。タコスとタコライスだったらどっちがいい?
『…タコライスかな』
昔、ライブで沖縄に来た時、みんなで食べたことがある。あれは旨かった。
藤くんとヒロが痩せの大食いっぷりを発揮して、おかわりとか言ってもう一皿頼んでたっけ。
――今日はあたしが作るけど、そのうち由文くんのゴハンも食べさせてね。料理うまいって聞いてるわよ。
『や、べつにそんなでもないけど』
敷地の北の外れにででんと構えられたスタジオルームは、かなりしっかりとした造りだった。
その気になれば、ここに何ヶ月でも引きこもれそうなぐらい。
『でも、結構合うもんですね』
――やっぱりベースが良いからよぉ。合わせやすいわ、すっごくイイわー♪
朝起きてすぐ、まずは肩慣らしで~って軽く2人で音を出してみたら、これが異様に合った。
俺のことをやたらと褒めてくれるけど、残念ながらそれがお世辞だってことはわかってる。
あんたは上手いよ。
そりゃ俺もそう変なことはしてないと思うけど、実力差っていうか、経験に裏打ちされた音の違い、合わせ方一つとっても、度量の大きさが見えるっていうかさ。
悔しいけど、さすがの一言だよ。
――ギターとか、入れてみたいわねぇ。
『…そう、っすねぇ』
誰かアテでもあんのかな。そう思ってちらりと視線を送ると、満面の笑みが返ってきた。
――候補は何人かいるのよ。一緒に選びましょ。
『選ぶ?』
ずいぶんえらそーな態度だこと。
でもまぁ、このレベルの大御所なら、メンバーも曲も自分のしたいようにするのが普通なんだろうか。
家に戻り、いそいそと料理を始める大柄の背中に向かって、こっそり顔をしかめてやった。
憎みきれない性格なところが、一番腹が立つ。
憧れはあった。ぶっちゃけ中学の頃とか、この人らが昔出した曲、よく聴いてたし。でもさ。
――あ、さんぴん茶が冷蔵庫にあるわよ。
『ただのジャスミン茶やん!』
手際よく出来上がっていく昼メシ。
ドラムもうまけりゃ料理もうまいなんて反則だぜ、おっさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます