第三章

side増

第11話

電話なのに、“たたき起こされた”という表現がピッタリだった。


目覚ましのアラームよりよっぽど大きな音に驚いて飛び起きたら、相手は藤くんで、ついでに時間は丑三つ時だった。



増「なっ…、も、もしもし?何?何ごと??」

藤「おはよう」

増「…挨拶が間違ってるよ?」

藤「ミュージシャンたるもの、挨拶はいつでも“おはようございます”だろ」

増「あぁ…そうか、ミュージシャンね…」



寝起きのせいか、どうも思考がおぼつかない。


まだバクバクしてる心臓を何とかなだめつつ、ベッドを抜け出した。

キッチンへ行き、冷蔵庫から水のボトルを取り出す。



藤「それよりさ、頼みがあるんだ。車出してくれない?」

増「いいけど、どっか行くの」

藤「沖縄」

増「車で!?」

藤「飛行機に決まってんじゃん。空港ってことだよ」

増「待って。それってつまり、チャマのとこに行くんだよね?何かわかったの?」

藤「わかったも何も…」



そこで言葉がちょっと途切れた。

何か言いよどんでる…というか、言いたいことがあり過ぎて何から言ったらいいか分からない、みたいな雰囲気。



増「ね、俺も一緒に行くんだよね」

藤「…うん」

増「飛行機の券とかは?」

藤「いや、まだ全然」

増「じゃあすぐ動こう。何でもいいから一番早く行ける便を探して、なければキャンセル待ちでもいいから。すぐ支度する」



ちらりとソファに目をやった。

秀ちゃんも目を覚ましたらしく、ごそごそ動く気配がした。



増「秀ちゃんもいるし。1時間くらいで行くわ」

藤「え?おまえらこんな時に何してんだよ」

増「べつに何もしてないよ(笑)ただ、チャマのこと話してたら止まらなくなっちゃって、泊まりになっただけ」



その証拠に、寝てる場所は別々でしょ。

そう言ったら、藤くんも少し笑った。



藤「わかんねーって、そんなの」

増「それもそうだね」


………。


藤「…何も聞かないの?」

増「会ってから聞かせて」



今は何よりも、チャマの近くに行くことが先だから。



増「じゃあ、後でね」

藤「うん」

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