第10話

――「問題は、これが事実であるかどうかではない。誰がどう思うかだ」


――『…俺たちのリスナーは、そんなことに騙されるようなバカじゃない。周りが何と言おうと、俺たちの言葉を信じてくれるはずだ!』


――「そうかもしれないね。ミュージシャンや芸能人のファンというのは、曲が好きだ、メンバー自身が好きだという人間が大半だろう。彼が彼であり、氏素性はどうであれ、現在“藤原基央”本人であるのなら、そこに揺らぎはない」


――『だったら…』


――「でも、藤原くん本人はどうだろう?」


――『そ…れ、は…』


――「もしかしたら両親の子ではないかもしれない、という可能性。そしてそれ以上に、自分が盗まれた子である可能性」



許せなかった。何がどうあろうと、藤くんを理不尽に傷つけるやつは許せない。

回りくどい。やり口が汚い。どうしてそこまでする…!!



――「きみがこちらへ来てくれないのであれば、今の話を公表しよう。なるべく真実味が出るよう、配慮して」



俺はその時、本当にがっくりと肩からうなだれたと思う。

断ることは出来なかった。



――『…わかりました』


――「そう言ってくれると思っていた」



でも、そのまま唯々諾々と従うのは絶対にイヤだった。

こんなわけのわかんねぇ口車に乗せられて、藤くんから引き離されるだって?

バカ野郎。絶対そんなのに屈してたまるか。



――『…卑怯者。どうしてよりによって、藤くんに手を出そうとするんだ!!』


――「よりによったからさ。直井由文という人間は、あまりにも藤原基央を大切にしすぎている。揺さぶりをかけるなら、きみ本人よりも彼に対してアプローチをする方が良いと判断した」






そうして、事はトントン拍子に進んでいった。

うちの事務所の偉い人の中には、ひそかに「直井をこっちのプロジェクトに乗せた方が良い」と考えていた人もいたらしい。


この1ヶ月の間に、そんな思惑やら利害やらカネやらの話も垣間見えて、今さらながらに『大人って嫌だなぁ』とか思ってしまった。




再生が終わってしばらく経ち、パソコンの画面がゆっくりと暗転する。


藤くんの手元に、これはもう届いただろうか。もう聞いただろうか。

聞いたとしたら、どう思っただろう。


意識がそのまま、眠りの世界へと落っこちていく。



直『ふじくん…』

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