side藤

第7話

その日は結局リハになんかならなくて、いちおう音は出してみたけど、3人でちょこっとセッションして遊んだ、くらいの感じで終わった。

そんな俺たちを、高ちゅーは終始何か言いたげな表情で見つめていた。




ヒロの車で送ってもらって、早々と家路につく。

見慣れているはずの空は真っ赤な夕暮れで、やたらと明るかった。


あいつが一緒だったら、きっと『すごいね!』という嬉しそうな声が聞けただろうに。



藤「…チャマ…」

増「ん?」

藤「や、何でもない」



少しだけ首を横に振った。

沖縄でも、こんな空が見えているだろうか。








増「じゃあね」

藤「うん、ありがと。気をつけてな」



軽くクラクションを鳴らして帰って行くヒロを見送った後、マンションのエントランスに足を踏み入れる。

オートロックの所でちょっともたついていたら、受付の人が話しかけてきた。



――お帰りなさいませ。


藤「あ、はい」


――今日のお昼に郵便物をお預かりしましたので、どうぞ。


藤「そうですか。すいません」


――こちらです。ただ、差出人の名前が書かれていないもので、念のためこの場でご確認頂ければと思いまして。


藤「…?」



それは、大きめの白い封筒だった。

明らかに紙以外の何かが入っていそうな厚み。


差出人不明の郵便物は危ないから開けるな、すぐ事務所に連絡しろって言われてる。

しかし、宛先の筆跡は、あまりにも俺がよく知っているヤツのものだった。

貼られた切手も、たった1人を思い起こさせるものでしかなかった。


中学の頃から変わらない、癖のある文字。

トランスフォーマー誕生25周年の記念切手。



藤「…!!」



あれは何年前だっけ?

あいつが『限定のやつ買えたんだよ!使わないで大事にとっとくんだ!』って自慢げに見せびらかしてきて、俺たちがあきれたように笑ったのは。


消印に僅かに読み取れる「羽田空港」の文字を見た瞬間、俺はそのやけに厳重な包みを開けにかかった。

中に入っていたのは、CDが1枚。


受付の人に「大丈夫です。持って行きます」とだけ言って、エレベーターに乗り込む。






家に着くと、手を洗うことも着替えることも忘れて、CDプレイヤーに手をかけた。

震える指先。



最初に聞こえてきたのは、やけに太くて低い、男の声だった。

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