第二章

side升

第5話

増「おはよう」

升「おはよ」

藤「……」

増「ふーじ?」

藤「……。あぁ、おはよう」



チャマが俺たちの前から姿を消して、丸1日が過ぎた。


たった1日、されど1日。

予想していたことではあったが、やはり藤原は普通の状態ではなくなってしまった。というか、何か怒っているようなオーラがずっと出ている。


もちろん俺もヒロも、ショックから立ち直りきれているとは言い難いが、まだとりあえず人格は保てているという感じだ。



増「さ、じゃあ始めようか」

藤「……」



今日はライブのリハーサル。しかし、ベース抜きで出来るとは思えない。

それ以前にボーカルの調子が心配すぎる。藤くん大好き同好会(仮称)ナンバー3の俺としては、刮目せざるを得ない。


ちなみに同率1位はチャマとヒロだ。

いや、気持ちで負けてるつもりはないけど、それを言うとややこしくなるし、周りからどう見られているかを冷静に考えれば、俺はまぁ3番手でいいだろう。

そんなことより、だ。



升「チャマがいきなりいなくなって、ライブはどうするのかな。事務所のみんなは何も言わないし、スケジュールにも変更はないけど」

藤「……」

升「やりたくないわけじゃないけどさ、全公演中止とかになってもおかしくないじゃん?だってうちのベースはあいつしかいないんだから」

藤「……………」



長い指が口元へ移動した。俺が今言っていることぐらい、とっくに考えていたんだろう。

ヒロに目配せして、別の角度からも矢を放つ。



増「それにしても、チャマがこんなに急にいなくなるとはね。藤原になら抱かれてもいいぐらい好きなんじゃなかったっけ」

藤「…それとこれとは別だったんじゃねーの」



否定の言葉とは裏腹に、その声からは、何か動こうという意思が読み取れた。

良かった、3人とも同じ気持ちか。



升「なんで突然いなくなったんだろう」



そもそも、あれが本気だったとしても(本当に沖縄行っちゃったらしいから本気ではあるんだろうけど)、どうもおかしいことだらけだ。



升「ベスト盤は出る、シングルも発売する、ライブの予定だってみっしり詰まってる、取材とかも山ほどある。いくら沖縄行きの話が魅力的だったとしても、いきなり全部放り出して行っちゃうほど、あいつは身勝手なやつだったか?」

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