side直
第4話
ちょっと考えればすぐわかるはずだって、そう思いながら別れを告げた。
俺にとって、今のバンド以上にやりたいことなんてあるはずがない。藤くんの曲以上に俺を惹きつけるものなんて、絶対にない。
だから、あの3人から離れてまで音楽をやりたい、なんて思うわけがないんだ。
那覇空港から車で1時間。海とサトウキビ畑に囲まれた、果てしなく美しいロケーションのど真ん中に、大きな家があった。
――ようこそ~!よく来てくれたわねぇ。疲れたでしょ、ほら荷物置いて。
『………』
――何か飲む?冷たい方がいいかな。
『………』
――そんなシラけた目をしないで。あら、ベースは手で持ってきたの?直接スタジオ行っちゃっても良かったかしらねぇ。
『……してっ』
――え?なぁに?
『どーして!』
無視しきれず、耐えきれずに叫ぶ俺。目の前で笑うのは、マッチョでヒゲ面の大男。
『どーしてオカマなんだよ!!』
――まぁ何てこと言うの、この子は!あたしはオカマじゃなくてオネエよ!大体、性差別は良くないわよ!
声が異様に太い。グラスを差し出す手が節くれ立ってる。身長は、俺を軽く20㎝は超えている。
『オカマとオネエと、どう違うんだよ!ていうか、そのガタイで性差別とか言われても怖いだけだから!』
――文句あるの!?ドラムをやるには便利よ、この筋肉!
『ぜってぇドラムよりアメフトとかの方が向いてるだろ、あんたはー!!!』
おかしい。絶対におかしい。
俺をここにやって来させるまでの搦め手もひどいもんだったけど、こいつのキャラ(というか本性)を見抜けなかったのは、一生の不覚だ。
――別に隠してたわけじゃないわよ。今まではやっぱりどこか他人行儀だったからね、男言葉でいただけ。でも2人っきりになったらこうよ、あたしは。
『…東京を出る直前の電話で、いきなりそのカマ声で喋られたこっちの身にもなってくださいよ。フライト中、マジでずーーーっと生きた心地がしなかった』
――良かったじゃない、いつでも緊急着陸態勢に備えられて。
『ったく…緊急で羽田に引き返してくれりゃ良かったんだ…』
――あ~ら。そんなこと言っていいの?
『………』
冷たいコーヒーをすする俺の隣で、オカマの目が細められた。
――由文くんの大切なあの人が、どうなってもいいのかな?
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