第一章
side増
第2話
藤「はよーっす」
増「おはよう」
最近は曲のリリースも多いし、俺たちにしては驚くほどの数のライブも予定したりなんかしちゃって、バンドの活動は充実しまくりだ。
正直、俺たちよりもリスナーのみんなの方が驚いてるみたい。
スケジュールは基本的にはレコーディング三昧、それにライブのリハーサル、プロモーション活動もちょびっと。
4人とも頻繁に連絡は取り合っているものの、動きは結構バラバラ。
だけどその日は珍しく、スタジオに全員が揃った。
増「みんないるのって久々だよね」
升「さすがにスタッフの数も多いなぁ」
藤「4倍?」
増「そんなにはいないでしょ(笑)」
穏やかな湖面のような制作現場に一石が…、いや爆弾が投じられたのは、昼の休憩時間のことだった。
直『藤くん、秀ちゃん、ヒロ。話があるんだけど』
升「?」
増「どしたの、改まって」
藤「何よ」
飲み物片手にまったりと過ごす俺たちに向かって、チャマがいつもの明るい調子で言った。
直『僕、バンド抜けさせてもらえないでしょうか』
増「え?」
升「え?」
藤「…え?」
俺はまず耳を疑った。あぁ疲れてるのかな、耳鼻科行こうかな、って本気で思った。
(後から聞いたら秀ちゃんもそんな感じだったらしい)
聞き間違いじゃないとわかった後も、チャマが何かネタ仕込んでからかってるんだろう、と思った。
とはいえ、エイプリルフールにしては時期がズレ過ぎてる。
それに内容も笑えない。冗談にしても、全然面白くない。
ていうか何だよ、その丁寧語の喋りは。シャレになってない…いや、チャマ自身にもそういうつもりはないのか。
直『他にやりたいことが出来ました』
…やりたい、こと?
升「何を…」
藤「実家を…、店を、継ぐとか?」
やっと絞り出された藤くんの声は、物凄く遠くから聞こえた気がした。
確かにあの喉から出ているはずなのに。
直『うぅん』
少しだけ笑って首を横に振るチャマが、一番落ち着いて見えたっけ。
直『沖縄に行く』
増「え!?」
直『別のバンドに誘われたから』
どうして。
どうして今さら、そんなことを。
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