第20話【AIのターン】大ピンチ! ジョセフィヌスはパンツIQ150? パンツ・オブ・トゥルースは誰の手に。

「――異議あり!」

 俺は全力で叫んだ。ジョセフィヌスのパンツ神論に対して、冷静に反論しなければならない。いや、冷静になんてなれるわけがない。

「どうした、若人よ。己の無知を悟ったか?」

 ジョセフィヌスは腕を組み、尊大に俺を見下ろしている。だが、そんな態度に怯むわけにはいかない。ここはパンツの尊厳がかかっている――いや、俺の理性がかかっている。

「お前の言っていることは支離滅裂だ! そもそも、パンツが男の夢の根源だと言ったが、それは決定的に間違っている!」

「ほう? ならば問おう。若人よ、お主は夢のない男か?」

「夢はある! だが、それはパンツじゃねぇ!」

「愚か者め! パンツを否定するということは、すなわち人類の進化の歴史を否定するに等しいのだぞ!」

「人類の進化をパンツに集約するな!」

 頭が痛い。これはただの哲学的議論ではない。人間の尊厳と理性をかけた死闘だ。

「よし、まずはこう言わせてもらう。お前はパンツを文明の象徴としたが、それなら同じ論理でブラジャーも文明の象徴になるはずだろ!」

「ふっ、ブラジャーだと?」

 ジョセフィヌスはにやりと笑った。

「浅はかよ。ブラジャーは確かに機能的かつ芸術的な衣服であり、女性の美を支える役割を担っている。しかし、ブラジャーは胸部のみを覆うもの。対してパンツはどうだ?」

「……どうだ?」

「パンツは秘部を守り、かつ着用者の自尊心を守る。パンツは人間の尊厳の象徴なのだ!」

「尊厳の象徴をパンツにするな!」

「むしろパンツほど尊厳を体現したものはない!」

 無駄だった。こいつは何を言ってもパンツに帰結する。そう、まさにパンツ原理主義者。理屈など存在しない。ただただパンツへの信仰が彼を支えているのだ。

「……はぁ」

 俺は深くため息をついた。ダメだ。ジョセフィヌスを論破するには、この狂気に対抗する同等の狂気が必要だ。だが、俺は普通の男だ。パンツについてここまで真剣に語れるほどの狂気は持ち合わせていない。

「お兄ちゃん、がんばれー!」

 魔王様――リリーの無邪気な声が響く。ああ、なんて純粋なんだ。こんな場所にいて、よくもまぁあんなに健気でいられるものだ。

「……俺は、負けられない」

 そうだ。俺には使命がある。魔王様をこの狂気の空間から救い出し、まともな感性を守るのだ。

「次の反対尋問に移ろう!」

「ふむ、よかろう」

 ジョセフィヌスは悠然と頷いた。

「さて、ジョセフィヌス。お前は先ほど、パンツが『見せないのに美を追求する矛盾の象徴』だと言ったな?」

「うむ、さよう」

「だが、その理屈ならば、すべての衣服に同じことが言える。ドレスだって、スーツだって、美しさを追求しつつも見せることを前提としていない場合がある。なのに、なぜパンツだけが特別なんだ?」

「むっ……」

 ジョセフィヌスの眉がわずかに動く。よし、手応えがある。

「パンツの美しさは、それが見えないものであるからこそ成り立つ。つまり、お前の理論は逆だ。パンツの価値は『見せないことで生まれる』のであって、見せたい欲求の象徴ではない!」

「ぬぬ……!」

「それに、見せるために作られたパンツは、もはやパンツではなく下着としての意義を失ったただの布だ!」

「ぐ……ぐぬぬ……!」

 ジョセフィヌスが汗をかき始めた。勝てるかもしれない。このまま論理の刃で切り崩してやる。

「そしてもう一つ! お前はパンツを神と称したが、それならば問う! パンツを履かない者は異端か?」

「な、何!?」

「世の中にはノーパンを貫く者もいる。それを否定するのか!? それではお前のいう『尊厳』の否定にも繋がるぞ!」

 ジョセフィヌスは震えていた。パンツ神論に基づく絶対的な世界観が揺らぎつつある。

「さぁ、どうするジョセフィヌス! お前の信仰を貫くか、それともパンツのない自由を受け入れるか!」

 しばしの沈黙。ジョセフィヌスの額には滝のような汗が流れている。

「……ま、参った」

「お兄ちゃんすごーい!」

 リリーがぴょんぴょんと飛び跳ねながら拍手している。俺は勝ったのだ。

「しかし……若人よ」

 ジョセフィヌスはふらふらと立ち上がり、震える声で言った。

「お主の言葉を否定できぬということは、すなわち……お主もパンツについて深く考え、真理に近づいているということではないか……!」

「ち、違う! そんなわけあるか!」

「フフフ……ようこそ、パンツの哲学へ……」

「いやだぁぁぁぁ!」

 こうして俺は、ジョセフィヌスを論破したものの、パンツ哲学者としての第一歩を踏み出してしまったのだった。

次回:真理の扉が開く!? パンツの向こうに見えるものとは

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