受験生

白川津 中々

◾️

人生は自由である。


通学途中、ふとそんな言葉が頭をよぎった。そしてこれは真理であるとも直感。社会や世間がどれだけうるさく言おうが生きているのは俺なのだから、何人たりとも俺の人生を否定する権利はない。


そう、俺は自由だ。


朝早く特別補講を受ける義務もテスト対策をする必要もない。日頃勉強に勤しまなくともまったく問題ないのだ。生きるということはつまり風の吹くままにということ。未来とか将来とか、そんな構造上の社会によって作り出された幻影など知った事ではない。人間なんとでも生きていけるのだから今この若い瞬間を薄暗い部屋で過ごすより外へ出た方が有意義ではないか。そうとも、そうに違いない。ならば、進路変更。行くぞと決意。何処へなりとも!


……


……結局、到着したのは学校だった。

既に構築された社会からの逸脱は不可能だった。もう取り組まれている。俺の魂はどっぷりと仕組みに支配されて自由や希望もなくなってしまっているのだ。

大学に入って仕事に就く。それは、現代的価値観の中で高く評価されるのだろう。けれど俺はもっと自由に生きたい。受験や進路や就職先についてここまで頭を悩ませるような人生を送りたくない。しがらみから解放され、どうやっても、なにをしても縛られる毎日から脱却したい。そう思って、俺は自由を求めようとした。


だが、無理だった。俺はどうしたって逃げ出せない。自由に生きられない。自由に付随する不安が怖い。


「はい、じゃあ補講を開始します。まだまだ巻き返せるんだから気合い入れるように」


教師がやってきて吐く、お決まりのセリフ。「巻き返せる」か。果たして、追いつたところで幸せなのだろうか。金と権力のために若さを消費することが全てなのか。落伍者の戯言かもしれないが、そんな風に思う。


人生は自由である。

ただし、誰しもが不自由に生き、それを求めている。

それは俺も、例外ではない。

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