第5話 どうしたら

 さすがになんとかしなければマズイと思った。どうしたらミスをなくせるのだろう。


「気をつける」


 そんなこと、とっくにやっている。間違いはないか、見落としはないか、常に気をつけている…つもりなのだが。


「つもり、だからいけないのかな」


 気をつけているつもり、頑張っているつもり。つもり、でいるうちは自分の中のことだから、いくらでも誤魔化しがきく。


 それならどうすればいい?自分の外に出して、見えるようにしたらどうだろう?


「わあ、すごいね、これ。運動会の万国旗みたい」


「鯉のぼりじゃないか?よく地方とかで大きい鯉のぼり、いーっぱい並べて川とか渡してるやつ」


「いやいや、メキシコの洋服とかの下についてる、フリフリみたいなやつ。フリンジだっけ?あれでしょ」


 砂原さんの影に隠れて、存在感はあまりないが、経理にもう二人いる先輩、梅原さんと田辺さんが、麻衣の机を覗き込んで笑っている。


麻衣のパソコン周りに貼ってあるフセンのことである。


「数字の配列注意!664?644?」


「〜の印鑑は2カ所!!」


「もらった時点ですぐ確認!!」


 今までにしたミスを、覚えている限り全てフセンに書き出して、見える所に貼ってみたのだ。

せめて同じミスは二度とくりかえさないように。そうして書きながら、こんなにたくさんのバリエーションで間違いを犯していることに愕然とした。


 バカみたいな方法ではあったが、それでも少しは効果があったらしく、麻衣の間違いは少しずつ減っていった。だが、どうしてもゼロにはならない。


−同じ失敗は二度と繰り返さないって言うけれど、そんなの意味がないわ。だって、次から次に「新しい失敗」をしちゃうんですものー


と言ってたのは赤毛のアンだったっけ。世界の名作の主人公に限りなく共感を感じると共に、同じくらいの量の絶望を覚える。


「あら、今度はここを間違えたのね」


 麻衣の間違いを指摘するとき、砂原さんは、心なしか嬉しそうな顔をするようになった。


 砂原さんの嬉しそうな顔なんて、そう滅多に見られるものじゃない。そんな機会を自分が提供しているのだとしたら。


…すごい、嫌だ。


 面白がってもらいたいのではない。できるじゃないか、と評価して欲しいのだ、麻衣は。この人に。なのに、なかなか思うように行ってくれない。イライラする。

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